マレーシアはイスラム国だから風俗は気をつけろと、さんざん言われてやってきた。イスラム国は宗教警察があって突然踏み込まれることがあるからな、そうなったら国外追放だよと脅された。仕事の途中で国外追放されたらクビかもしれない。

クアラルンプール風俗は二つ メンズSPAと出会いバー
現地駐在員は「大丈夫ですよ、ここは政治家と繋がっているから警察は来ませんよ」と笑う。メンズSPAと言われる店である。マレーシアの風俗はメンズSPAと出会いバーが主流らしい。彼は「マッサージはいらないですよね」と言う。あったほうが良いのだけれどとりあえず彼に従う。彼がショーアップとかなんとか言うと女の子が並んだ、う〜んこれは。
今回のマレーシア訪問は仕事なので行程はすべて駐在員まかせである。仕事でほとんど埋まったがひとつだけマラッカ海峡観光をお願いした。昔読んだ谷恒生の小説「マラッカ海峡」が強く印象に残っていてその舞台をひと目見たかったのである。
小説は、国際的な陰謀によってマラッカ海峡に沈められた貨物船の乗組員が、一人だけ生き残り復讐をする話である。アザラシと呼ばれる主人公は強い獣臭がする長いコートを纏い、目は赤く充血し陰惨な光りを放っている。異様な外観の肉体に圧倒的な強さ宿している。アザラシは、敵を倒すのに躊躇をしせず容赦もしない、ボクシングの元ランカーだったやくざも完膚なきまでに叩きのめされる。
当時の小説や映画の主人公は、悪者に対し抑制的でイライラするシーンが多かったが、アザラシは違い圧倒的な暴力で敵を倒すダークヒーローだった。永井豪のブラック・ジャックをモチーフしたのだろうが、その強さにスカッとした。その後、北斗の拳のような圧倒的に強い主人公が多く登場した。

マラッカ海峡は、ひねもすのたりのたりかな、だった
駐在員にそんな話をすると笑われそうなので、日本の原油の大動脈であり国際的な要衝である海峡を見たいと説明した。若い駐在員は「夜ばっかりと聞いてましたけど、ちょっと見直しました」と微笑む。そんな良いものではなく、単に夜やバイオレンスなど本能に近いものが好きなだけだ。
クアラルンプールからマラッカまで豪華な長距離バスがあり料金も安い。料金は15リンギット(約500円)で2時間くらいで着く。マラッカが世界遺産に登録されてから便利になったそうだ。今回は会社の車を使うからちょっと贅沢な小旅行になる。
マラッカは14世紀にマラッカ王国の王都として発展し15世紀にイスラム化した。明の永楽帝の時代、鄭和の大艦隊が寄港している。鄭和はムスリムであり宦官だった。ニューハーフの大提督は現代ならLGBt社会の英雄だろう。
その後イギリス、ポルトガル、イギリス、日本と統治が移り、マレーシアの一州として完全に独立したのが1957年と意外に最近である。町並みは歴史が示すように中国風の町並みに欧州の教会や砦、イスラムのモスクが混在して、港町独特の風情がある。
車をホテルの駐車場に止めて運河沿いの歩道を歩く。いよいよだと期待は膨らんだが、着いた先に広がるマラッカ海峡は肩すかしをくらわすようにのんびりとしていた。国際的謀略もなければ船が衝突する緊張感も無い(実際は運航は大変である)昼下がりの海面に陽光が輝き、動いているか良くわからない船がたくさん浮かんでいるだけだった。向こう側に陸地が見える。凶悪なアザラシが生まれた海はひねもすノタリノタリかなだった。

旅の教訓 マレーシアではビールが無いところがある
期待とは異なるが良い風景だ。過去の歴史を想像できる場所は素晴らしい。人はたまに遠くを見ないといけない。詩人アランは「遠くを見よ」と述べている。こうなるとビールが欲しくなる。「ビール飲もうよ」というと駐在員は「買ってきます」と小走りに離れていった。
暫くすると帰ってきて「すいません、ビール売ってなかったです。中国系の店は置いているのですがどこも休みで・・・」ここはイスラムの国なのだ。周りを見るとビールを飲んでいる人は居ない、女性はスカーフを着けている。台湾の新幹線でアルコールを売っていないと言われたときのような失望感に襲われる。ビールを持って来れば良かった。
「ここ夕日が綺麗だそうだね」「夕日を見てたらSPAにいけませんよ」「そうか、帰ろう」あっさり戻ることにした。社有車は快調に走る。窓の外にはアブラヤシのプランテーションが広がっている。眺めているうちに街をまったく観光しなかったのが残念になってきた、街ではビールを飲めたかもしれない。
「世界遺産の街へ行って、海を見るだけで帰ってくるのでいいのかな」と話かけると「今からでも引き返せますよ、SPAが遅くなりますけど」「・・・」彼の顔にほんとに好き物なんだと書いてある。街のことはすぐに忘れたが、風俗もビールと同じようにダメになるのじゃないか、嫌な予感がする。

旅の教訓 宗教と性の関係は知っておかないといけない
日本人から見ればイスラム教は大変厳しい宗教である。豚肉はダメ、日に5回のお祈りをしなければならない。酒もダメとなるともう生きていけない。そこにタリバンやISのイメージが重なるとなんとも怖い宗教だとなる。イスラムの人々は厳格なイスラム法の下にいる。法は神の啓示であるコーランと予言者ムハンマドの行動や言葉を伝えたスンナを集めたハディースからなる。有名な戒律に女性はヒジャブを着け肌を露出してはいけないがある。
女性に対して厳しいから性に対しても厳しいかと言えばそうでもない。キリスト教や仏教は性を禁忌とするがイスラム教はしない。スンナに開放的なものが多くある。ムハンマドは禁欲を主張する者に対してこんなことを言っている。「せっかくアッラーが許し給うた美味しいものを勝手に禁じてはいけない」
「女性を見て欲情したときは、すぐに妻のところへ赴き性交によって情欲を抑えなければいけない」自らが街で女性をみて欲情を覚えたときの言葉で人間臭い。どちらも最近の欧米や日本のポリコレでは女性蔑視と怒られそうだが男の本音である。
イスラム教は男の性は自分の妻にだけ向けられるべきとする。妻は色んな制約を受けるが夫の愛を失なわない。肌の露出を禁じるのは、家の外で自分に向けられる夫以外の男の視線を避けるためで、家に帰ったら夫と大胆な愛を交わす。なるほどなぁ。

旅の教訓 タイまで行ったほうが良いかもしれない
「ショーアップ」で女の子が並んでくれたのだが小柄な少し色黒な女性がいない。どう見ても中国やタイやベトナムの女性たちばかりである。タイ人のような女性を指名した。部屋に入って尋ねるとやはりタイから来ていた。名前はアンさんという愛想のよい女性である。
「マレーシアの女性はいないの」とアンさんに質問すると「彼女たちはこの仕事をしない。だから私たちが儲かる、中国人はもっと儲ける」と笑う。中国人388リンギット、その他の国は238リンギットと差がある。「そんなら、マレーシアに来た意味が・・・」という言葉を飲み込んだ。
シャワーを促されベッドで舐めてもらって即合体、それなりに気持ちは良いのだけれど「ハイ一丁上がり」の感じが強い。時間は45分くらいだった。アンさんはずっと笑顔で良かったが、私の望むものと何か違う。これならマラッカ海峡の夕日を見たほうが良かった。
イスラムの人たちは風俗のいらない社会に生きている(本当はあるのだろうけど)キリスト教と仏教国の女性たちは性をタブーとしながらインスタグラムで奔放に体を露出する。風俗でも働く。性をタブーにしないイスラム教国の女性は肌を隠す・・・女性としてどちらが幸せなんだろう。

クアラルンプールにはまだ知らない風俗があるのかもしれないが、あまり期待しないほうが良さそうだ。
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