「それ、かわいそう。私たちにチップはとてもインポータント!」と彼女は言う。なぜインポータントだけが英語なのだろう。「僕は渡したよ」と答えると「あなた良い人」と少し汗ばんだ肌を寄せてくる。汗はさっきまで激しく動いていた余韻である。

ゴルフ場の少女は驚いた
タイのゴルフ場は常夏の国らしく緑が美しい。今日のゴルフ場はホールに行く途中に素晴らしく大きな樹があり、枝をいっぱいに広げていた。枝に巻き付いた蔦が大きなオレンジ色の花を咲かせている。その下に売店が置かれていた。
ただ景色やコースが素晴らしくてもスコアが素晴らしくなるわけではない。相変わらずのスコアで上がって売店の近くを通ると、少女が一人木洩れ日の中に立っている。彼女は冷たい水を満たしたグラスをお盆に載せていた。水は良く冷えていてグラスに露が浮いている。
長い髪、あさ黒い肌に白いブラウスが良く似合っている。はにかむような表情がなんとも初々しい。光源氏ではないが成長した姿を見てみたいような可憐さだ。先に歩く知人は、そんな彼女に興味を示さず、いきなりコップを鷲掴みすると水を飲み干した。無言でコップをお盆に戻す。スコアが悪かったせいか、いささか乱暴である。少女は吃驚した顔をしている。

旅に教訓 サービスにはチップで答えよう
彼は女性にモテない、その理由がわかったような気がする。男女平等といっても男は女性に優しく接するものである。「ありがとう」私はグラスを手に取った。冷たくて美味しい水だった。右手にグラスを持ったまま、左手でポケットをま探り、彼の分も合わせて50バーツをお盆に置いた。これが紳士というものだ。
「コップン・カー」彼女は恥ずかしそうにお礼をいう。タイの白い花、プルメリアが開いたような笑顔だった。これでなくてはいけない。おっさんは少女の笑顔になかなか出会えない、彼はもったいないことをした。
その話をベッドにいる彼女にすると「それ、かわいそう」と少女に同情する。彼女たちにとってチップはとても大切である、日本人はその重要性を忘れがちなので気を付けないといけない。「あなたは良いことした」と私の背中に手を伸ばしてくる。チップはインポータント、良いことをしたご褒美がもらえそうな雰囲気じゃないか。

日本にもあるチップ文化
日本にチップの文化がないように言われるが、少し前までは「心付け」は当たり前だった。温泉に泊まれば世話をしてくれる中居さんに渡した。白い半紙に包んだりポチ袋に入れて部屋へ通してもらった時に「お世話になります」と差し出す。中居さんも「すみませんねぇ」と言いながらさりげなく受け取ったものだ。
同じ用に料亭で美味しい料理を頂いたら「ありがとう」と渡す。引っ越しのときは、引っ越し業者に「お疲れ様」と渡した。ゴルフのコンペでは今でもキャディさんに渡すことがある。「心付け」は普通の文化だった。「チップ」や「心付け」はお金だけれど、感謝する気持ちが載るのでお金以上のものになる。人は見えないものを感じる力を持っている。
オヤジのチップには別の物がたっぷり入っている。「下心」というやつである。「下心」を辞典で引くと「表に現さずひそかに心の中で考えている事。本心。特に悪だくみ」とある。まさにその通りで、男は常に女性に対して下心を持っている。人より良いサービスを受けたい、モテたいといつも思っている。女は、男がバレないと思っている下心を鋭く見抜く力を備えている。

旅の教訓 ソイ・カウボーイのゴーゴーバーは見るだけでも楽しい
今夜の彼女はソイ・カウボーイで出会った女性である。ソイ・カウボーイ(ソイは通りの意味)は、アメリカ人T.G “Cowboy” Edwardsがこの地で店を開いたことに由来する。いつもテンガロンハットを被っていた彼のニックネームがカウボーイだったことからそう呼ばれるようになった。アメリカ人が多いのもうなづける。
アソーク駅から反対側に日本人なら誰でも知っている人気のゴーゴーバーのバカラがある。コロナの前はいつも満員だった。フロアは三階(だったと思う)まであって人でごった返している。見るのはタダだが待ち受ける罠は多い(今はビール代180バーツくらい取られることもある)
店に入り人波をすり抜けながら、女の子の踊る姿を上の階から下まで見て回る。女の子が下着を付けずに鏡張りのフロアで踊っている階がある。全裸よりも刺激的だ。見るだけと思ってもたくさんの女性を見ているとムラムラしてきてしまう。大勢の客の欲望も伝染してくる。
好みの女性を見つければ、罠だと分かっていても嵌ってしまう。そのトラップが今横にいる。タイ人らしい細い体に大きな胸、肌は白いほうだ、少しつり上がった目があまりにも好みだった。女性の数が多いということは、自分の好みの女性に出会う確率が高いのである。
店内は、大きな音楽、女性の香り、ビールの匂い、男の体臭と照れ隠しの笑い、それらを性欲という出汁にぶっこんだ大鍋である。原始のエネルギーが充満している。人の欲望は本来このようなものだろう。

50バーツの功徳
近年、米欧や日本のポリコレは性に対して極端な抑制を求める。あまり綺麗でない女性に本当のことを言えばセクハラ、オカマをオカマと言ったらモラハラである。現代人は快適な生活や金銭的な豊かさを得て、本来持っている本能に非寛容になった。その非寛容さから逃れたい人達がここに集まってくる。コロナで賑やかさは消えたが、先進国の息苦しさと男の欲望が通りを復活させた。男なら一度は行きたい場所である。
私の背中に伸ばされた彼女の手は肩から腰へと滑っていき、ひょっとしたらと思った途端、さり気なく離れてしまった。彼女は起き上り「アリガト」といいながら服を着る。ショートの3500バーツのサービスは期待したように増えなかった。ティーショットのみで終わった。まぁこのようなものだろう。

帰りのタクシー代を100バーツを渡すと「コップンカー」と手をあわす。「チップも嬉しいけど、明日も会ってくれたらもっと嬉しい。あなたいい人だから」笑いながらハグをしてくれる。昼の50バーツの功徳だろうか。木漏れ日の下で笑う少女の姿が浮かんだ。
コメント