偽装床屋はあっという間に終わってしまった。名探偵コナンやダーウィンが来たより短い時間だった。短い時間でサクッと満足するには年を取りすぎたのだろう。ミーケビーチから吹く風は熱帯というのに秋風のようだ。

偽装床屋は、あっと言う間に終わった
大阪にこれに似た場所がある、飛田や松島と呼ばれるところだ。そこの最短コースは20分である。タイパは最高だがコスパは悪い。コスパが悪くても年をとっても通う根強いファンがいる。性の好みは多様なので偽装床屋が好きな人もいるのだろうが、私には向いていない。これならホイアンの夜を楽しんだほうが良かった。店から出てくる仲間の表情も微妙である。
ぞろぞろ歩きだしながら「あっさりしてましたね」「まぁ、こんなものでしょう」「なんでも経験ですから」と口数が少ない。「ちょっと飲んで帰りましょうか」「明日の夜のことも相談しないといけないですし」男たちはめげない。さきほど涼しく感じた風がまた熱を帯びてきた。

ホイアンは美女の街でもあった
さてホイアンである。朝からハン川のほとりを歩きドラゴン橋を見て、ダナン聖堂、ハン市場を観光してホテルに戻り、タクシーをチャーターしてホイアンにやってきた。片道40分くらいで料金は半日で713,000ドン(3600円くらい?)だった。
途中、道の傍を歩く赤い牛をよく見かける。5頭くらいがのんびりと歩いている。ベトナムは牛が多い。ホイアンに近づくと道路の上に吊るされたランタンが現れる。運転手は車を旧市街の入口にある広場に止めて「帰りはここに電話しろ」と携帯電話の番号を渡してくる。お金は後で良いという。メンバーに必ず現地のSIMカードを使う男がいる、こんなときは頼りになる。
帰りのタクシーを拾うのが難しいと聞いたのでチャーターしたが、必ずしものそうではないようだ。

旧市街へ入るには券売り場で入場券を買わないといけない。入場券は半券に小さな5枚のチケットがついて12万ドン(約600円)である。小さいチケットの使い方が分からない、見かけた日本人らしい(なんとなくわかる)二人連れの女性に聞くと、半券が旧市街への入場料で、5枚のチケットは街の観光施設で使うものだと教えてくれた。「私は観光施設に入館しないのでそれはいらない」はダメなのだ。
旧市街は車が入れないので、観光客はみんなぶらぶら歩く。女性が多くておじさんはなんとなく肩身が狭い。ショートパンツ姿の女性が多くてどうしても目が行ってしまう。パンツから延びる脚はまっすぐで日本女性と違う色気がある。
街並みは全体的に中華風だがベトナムやフランスの雰囲気も混じっている。通りに観光客向けに踊りを見せている店があった。ぴったりとしたアオザイに包んだ女性たちが胡弓(?)の伴奏に合わせて踊っていた。踊り子の優美な曲線を描いた身体が揺れる。見ていると夜の期待がいやがおうにも高まってくる。

ホイアンは女性の街だった
最初に日本人が建てたという来遠橋を見に行った。渡るだけなら無料だが観光するとチケット一枚が必要だ。渡れば自然に観光になると思うのだけどその差は何だろうか。私達はどう見ても観光客なのでここで一枚使う。日本人が400年前に作ったとされる橋だがどう見ても中華風である。
次はフーンフンの家(馮興家)へ行く。国際都市ホイアンらしく、土壁はベトナム式・柱や扉は中華式・屋根は日本式、3ヵ国の文化が程よく調和した折衷様式だった。歴史を感じる良い建築だった。ここでもチケットを使う。
建物一つ一つもなかなか良いだが河に面した町並みがまた素晴らしい。川沿いの道を色んな国の人が歩いている。河に浮かぶ船に乗るのも楽しそうだ。通りにはレストランやスィート、バインミーの店が並んでいる。バインミーの具は箸で入れていた。もちろんランタンの店もある。

旅の教訓 ホイアンはビール天国だった
随分歩いた頃「ビールでも飲みませんか」と誰が言う。喉が乾いていたがどの店に入れば良いかわからない。相談してTea Garden Restauranteという店に行ってみた。ビールのメニューにARUEという地ビールや333やハイネケンに並んで、FreshBeerが3000ドンと書いてある。
「なんですかね、これ」「3000ドンだから15円くらいだね」「水は5000ドンくらいしなかった?」とにかく安い。店員に訊ねると「Beer」と返ってくる。「それくらいわかるわい、どんなビールなんだよ」とは言わず、論より証拠、見る前に飛べと注文すると、日本の生中くらいのジョッキが出てくる。飲んでみると生ビールだった、生は確かにフレッシュである。
アルコールが普通のビールより低いようだが味は十分である。4杯飲んでも60円とヤクルト一本と変わらない。ほんとに3000ドンか、3000の後ろに小さな0が書かれているのではないか、新宿でボッタクリの経験のある昭和のオヤジ達は心配する。このビアホイというビールは当日に消費される前提で作られる、保存剤が入っていない健康ビールだった。
こんなに安ければ何倍でも飲める。主食にしていつも酔っぱらっていることもできる。エチオピア南部に住むデラシェ族は、現実にお酒を主食にしている。パラショータというトウモロコシと雑穀のどぶろくを飲んで生きている。酒のアルコール度は2〜3%くらいあるらしい。主食だからもちろん子供も飲む。それでもアル中になったり栄養失調になったりしないそうだ。
ビアホイがあればそんな生活ができそうだがやはり料理は食べたい。

旅の教訓 ホイアンで料理も楽しもう
次は料理である。さっきの店員にお奨めを訊ねると「こいつら本当に日本人の観光客か、なんにも知らへんな」という顔をしながら、ホワイトローズ、フライドワンタン、ラオカイと言う。ビールの肴になればなんでも良いので、聞いた通りに三つの名前を繰り返すと、何人前がいるかと聞いてくる。料理の量はわからないが面倒なので指を二本立てた。
ホワイトローズとは何だろう、まさかバラの花の料理ではないだろう。想像がつかないが、出てきた料理はエビのすり身が入った白い蒸し餃子だった。皮はプリプリとしてエビの味とよく合っている。その上に焼いたニンニクが乗せられパリパリとして美味しい。女性は食感を楽しむからこれは人気があるだろう。量は少ない。
ラオカイは讃岐のぶっかけうどんや伊勢うどんの肉うどん版である。うどんをすすりながらビールを飲むのは始めてだがモチモチとした感触は悪くない、だがうどんは酒の肴ではなく主食に食べるものだろう。
フライドワンタンは文字どおり揚げたワンタンである。それに甘酢とエビの具がかけてある。日本の酢豚の味だ。酸味とエビの味が調和してなかなか美味く一番ビールに合う。甘酢がなければもっと良いかもしれない。醤油をかけたい欲求が募る。

ホイアンの闇は素晴らしい 女性と来たい
ビアホイが安いのを良いことに何倍も飲んで酔っ払ってくると話題は女性に移ってくる「さっき踊っていた女の子、可愛かったですね」「ベトナムの女性は色っぽいね」と話していると日が暮れてきた。
市場の低い屋根に明かりが灯り、家から家へと渡されたランタンに火が入る。川面に夕暮れの太陽の光が反射している。高い建物が無いので空が広い、広い空が藍色から黒に変わると街が一層輝きを増してくる。色とりどりの売り物のランタンが光り出す。これは凄い、オヤジ達の口数が減ってしまう。
ランタンの灯りは周囲の闇を引き立てる。日本の田舎の盆踊りの雰囲気のようだ。連なる夜店の灯りが山や田んぼの闇を深くしていた。ここも街の輝きが闇を深くしている。日本が失った闇がここにある。満月の夜はランタン祭りが開かれる。多くのランタンが飾られ街の灯りはそれだけになる。灯籠流しも行われるそうだ。さぞや綺麗な夜だろう。

ランタンの灯りよりそれを包む闇に惹かれるのはおかしいだろうか。この雰囲気を女性と一緒に味わいたいとの思いに耽ったとき「そろそり帰りましょうか」と声がかかった。みんな女性が恋しいのである。タクシーを待たせている所へ向かう。街から、自分が思った日本の雰囲気が消えて、異国の感じが強くなっていた。
旅の教訓 偽装床屋は好みしだい
「ホテルへ行くか」「いや、グーハインソン」運転手はニヤリと笑い「OK」と言った。タクシーを降りて歩くと、女の子が店の前に立っている美容院が見つかった「これじゃないですか、聞いてみよう」「ブンブンあるか聞いてね」
一軒目は「ブンブンはない」と言われたので次へ行く。こちらはOKだった。お金を払って2階の部屋へ行くけれど、キスなどできる雰囲気がない事務的な対応である。これはあかんやつだろう。

予想通り、持ってきた(いつも持っている)必需品を着けると、あっという間に抑え込まれて3カウントだった。レフリーのカウントが早すぎるのではないか。30分一本勝負は不発に終わった。なんともはやだがどこか懐かしい感じもする。昭和のピンサロに客に唇は許さない女性がけっこういた。そんな嬢が暗いフロアのソファの上で乗ってくれる。あの頃はそれだけで満足できた。
だが今はこのあっさり度に満足感を殆ど感じない。ホイアンで想像した情事とかけ離れていて私の好みではない。手だけの70万ドンが130万ドンより気持ち良かったかもしれない。期待とは裏腹の久々に後悔した夜になった。
旅の教訓 風俗は賭けと知ろう
風俗において、満足した数と失望した数を比較すれば圧倒的に失望が多い。そこは玉石混交の世界あり宝石は少ない。確実に宝石を得る手段はお金しかない。

お金を使わないと賭けのようなものにある。今夜はその勝負に負けたのだ、そんなこともあるさと飲み屋を探す。反省の後はホイアンの風景を思い浮かべながらもう一杯飲もう。満月の夜にもう一度行けることを願って。
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