佐藤君はよく食べよく喋る「さぁ、次へいきましょう」とエネルギッシュに宣言する。「どこへ」「夜総会ですよ、もちろん夜総会」夜総会は、ナイトクラブであるが銀座にあるのとは違い、ショーを見ながら美女と飲める。本格的なクラブとキャバクラとカラオケが合体したKTVである。

夜総会へ出発 香港の夜は夜総会とピンポンマンション
夜総会はホステスとの一夜限りの恋愛ができる。香港は上海や広州と違って売春禁止法がないが、固定された場所で斡旋は禁止である。だからソープやファッションヘルスのような箱ものの営業はできない。ただ斡旋は駄目でも女性個人が部屋を借りて営業するのはOKである。それを活かしたのが「141」ピンポンマンションだ。
香港の繁華街は尖沙咀(チムサーチョイ)旺角(モンコック)銅鑼湾(コーズウェイベイ)あたりだ。今夜彼が連れて行ってくれるのは尖沙咀にある会社御用達の店らしい。店に着くとかって知ったるところらしくドンドン入っていく。女性たちのレベルはとても高い、中国本土より高い。南アジアや欧米の血の入ったような小娘もいる。そのなかに小顔で手足が長く指のきれいな娘がいた。杏形の瞳にショートカットの黒髪が良く似合っている。胸は大きくないが綺麗な形をしている。これに・・・
佐藤くんは席すわると「飲み代は僕が持ちますけど、後は自分でお願いしますね」大きな声で宣言する。「香港は高いよ、会社で落とそうよ」「高いから駄目なんですよ、公私混同は駄目です」厳しい。「まぁまぁその話は後で」ママがわかってますよと笑顔を向けてくる。「飲みましょ」彼女が指を絡めてくる。これに弱い、彼女の指から私のあそこに紅い糸が繋がった。

旅の教訓 行ってはいけない店に注意しよう
後の話はシステマチックに終わった。飲み代が一人900HKD 愛の紅い糸が1800HKD、チップが200HKDだった。全部で43000円くらいになる。これは相場より少し高いらしい。彼女は後でやってくるという。
「飲み台がけっこう高いね」「でもいい店だったでしょう。気をつけてくださいね。香港には日本人が行けない危ない店がけっこうありますからね」「歌舞伎町の15倍くらい危ないですよ、知らない店はだめですよ」・・・そう気をつけないといけないのだ。
随分以前になるが怖い目にあったことがある。ある夜、会社の同僚と二人で尖沙咀でしこたま飲んで酔った。酔っ払いの話題が「香港97」グラビア雑誌になった。香港版ハスラーやプレイボーイというべき無修正の雑誌が当時はあった。
グラビアは、中国系、マレー系、白人とのハーフ、巨乳、美乳とバラエティの富んだ構成になっている。美女たちは街や砂浜やジャングルでポーズをる。日本女性にない艶やかさと、みんな柔かそうだった。雑誌に高級クラブの広告がたくさん掲載されていた。それに美女が並んでいる。そんな話すれば店に行こうとなるのは必然だった。
同僚はさも知ったように一軒のKTVに入っていく。少し違和感を感じるが、酔っぱらいのノー天気の日本人サラリーマンである、個室に入って女性を指名してさっそく歌い始めた。その頃、日本人は葱を背負った鴨である。

旅の教訓 危ない時は逆らってはいけない
気前よくチップや飲み物を奢っていると女性たちものってきた。どこを触っても笑って許してくれる、女性も触ってくる。これは次もあるね・・・と思ったときドアがノックされた。女性たちが一瞬緊張する。
なんだろう。ドアが開いてマネージャー入ってくる。「お客様、もう少しお静かに、他のお客様が迷惑と仰っているので」「カラオケを歌いに来て静かにしろとは何だよ」同僚が珍しくもっともなことを言う。女性が駄目と目で合図を送ってくる。
これはまずい、同僚が更に言おうとするのを止めて「センキュー、マイタン」、冷や汗が出てくる。マネジャーはホットしたように頷いて出ていった。ドアが閉まるとどっと汗が吹き出す。「ここはお前の店やろ」「いや始めてやで」事もなげにいう。やっぱりだ。
「お前こそ、らしくなくおとなしいやないか。文句を言うのはお前の役割や」彼は訝しむ。そう私は自分らしくなくなるような怖い物を見てしまった。ドアが開いたとき、マネージャーの向こうの廊下に上半身を薄暗い照明に溶け込ませて二人の男が立っていた。手を前に組み私たちの部屋の中をじっと見ている。
手の甲にあるのはタトゥーようだ。顔は判別がし難いが全く表情がない。無表情な目でこちらをじっと眺めている。どう見ても堅気の雰囲気ではない、ひょっとしたら黒社会の人かもしれない、やめてよと酔いがいっぺんに覚めた。

旅の教訓 危険にあう原因は自分にある
「ここは日本人は来ない、お客さんの日本の歌が気にいらなかったかも」小娘がいう「前にもそんな事あった」「あれは怖い人なのか」聞くと口をつぐんでしまう。やっぱりそうなんだ。そうなるともう早く帰りたいばかりだ。ドアの向こうに二人が待ち構えていたらどうしよう。
恐怖の時間だったが、ぼったくられることもなく会計は終わった。店を出ると後ろを振り返らずひたすら歩く。店が見えなくなってやっと話す余裕ができた。「おまえの知ってる店やと思ったんや」「お前が普通に付いてくるから知ってる店やろうと思った」後付の理由で責め合おう。ほんとは何も考えず入ったのだ。それも入ってはいけない店に。
香港は日本人向けと香港人向けの店が混在している。現地向けの店は黒社会の経営で幹部たちがやってくるらしい。そんな店に決して足を踏み入れてはいけない。そこで日本語の歌を大きな声で歌ったのだからいけない。幹部が腹を立てて「リーベンクイツがいるのか、始末してこい」「へい」だったのかもしれない。それ以降、駐在員が行く店以外は行けなくなった。ほんと怖かった。
男たちのオーラは強烈だった。韓国で同じような目に遭った、その男たちがよりも数倍怖かった。ソウルではマ・ドンソクのような刑事に助けてもらったがここにはいない。彼らは、命じられれば無表情で私たちを簀巻きにしてビクトリア湾に沈めただろう。実感があった。私の記憶の「繁華街で消える日本人の都市伝説」が上書きされた夜だった。
可愛い小娘たちだった。美女が危険なところにいるのは世界共通である。だが、それを諦めるのが小人の知恵というものだ。

正しく遊べば、素敵な成果が待っている
バスタオル姿の彼女がベッドに誘う。香港97の流れる滝でヌードになっていた女性に似ている(そんなの誰もわからない)ビールをテーブルを置いて横になると柔らかい身体が触れてくる。彼女の瞳は怪しく輝き妖艶さが増した。彼女はもしかしたら九龍城塞にいた女妖かもしれない。香港の闇に飲み込まれてしまう。もう駄目だ、でも気持ち良い。
香港は中国文化の爛熟が残っている。中国に返還されてから政治的な締め付けが厳しくなりつつある。風俗もまた中国本土のように取締りが厳しくなるに違いない。中国の漢字が味気ない簡体字になったように変わるかもしれない。
簡体字は毛筆の流れがなく陰影が乏しい。香港はまだ繁体字が多い。百花繚乱の繁体字の看板が輝く街こそ中国本来の姿だ。そして夜になると妖しい営みが繰り返される、そんな都市伝説の街のままで居て欲しい。

激しい時が終わり、彼女の横顔を見ながらそんなことを思う。加油、香港である。


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