「ねぇ、若い子がいっぱい居るのにどうして私を選んだの」というようなことを言っている。かたことの英語と日本語の会話なのであくまでも「ような」だが、この類の質問は民族を問わないらしい。「今日の私はどう」「あの娘に比べて私のことをどう思う」も同じである。

タニヤの夜 女はいつも問いかける
この問いに正直に答えても良いことはない。「昨日と同じだよ」とか「あの娘のほうが可愛いね」とは夢々いってはいけない。「選んだといっても、君が強引だったからでしょ」は言わない。ネットに、風俗で相手が気に入らなければきっぱり断る、費用も値切る、余計なチップはださないとある。皆さんしっかりしているが私はそれができない、気が弱いから鴨である。
いつものナイトハンターチームでバンコクのタニヤに来ている。ハンターなのか獲物なのか怪しいものだやる気は満々である。ナイトハンターは英国のホラー小説のタイトルからとっている。主人公ダン・ブレディの家族は、カルト集団にクリスマスの夜に襲われる。理由はわからない。襲撃者は本物の動物の頭をマスクにして被っている。妻を奇妙な模様が彫られたディルドでレイプし殺害、幼い姉弟を拐っていく。
生き残ったブレディは妻の幽霊と共に子供を取り返すために戦いを始める。英国の正統ホラーに、ローマと戦ったケルトの女王ボーディケアや、無念の死を遂げたバイキングの王子の護符などの伝説を加味したサスペンスになっている。ブレディは子供たちを取り戻せるのか。ホラーの好きな人は面白いので読んでみてください。

旅の教訓 モテたいなら若くない娘を選ぶのも手である
私たちナイトハンターはいい女を見つけられるのか。節約のために牛野家で腹ごしらえして通りを歩いている。さいわいにもタニヤは安全だ。看板が出ている店ならぼったくりにまず合わない。だが入る前に必ず値段を確認しよう。
メンバーの一人が数人の女性と交渉をしている。いい相手が見つかったらしい。飲み代は一人800バーツだ。女性たちはみんな若くてかわいいが少し年増が一人いる。「この娘たち、みんな友だち同士だそうです。彼女の担当をお願いします」なんで私が担当なんだ仕事じゃあるまいし、と言いたいが特別に希望もない。
彼女はもう腕を強く組んでいる。店内にもっとかわいい娘がいたらどうしよう。彼女は店内でも一生懸命である。身体を寄せてくる、胸を押し付けてくるはの大サービスである。昨夜サイアム駅とシーロム駅を間違えた話をしたら、「サイアム」「シーロム」と発音を教えながら笑ってくれる。なんだか可愛いいぞ、ということでペイバー700バーツを払うハメになってしまった。

旅の教訓 BTSの駅は間違わないようにしよう
昨夜の帰りは独りだった。けっこう遅い時間だったがBTSはまだ走っている。タクシー代を節約しようとBTSに乗ったまでは良かったが、サイアム駅に降りたつもり別の駅に降りてしまった。駅の様子が記憶と全く違い、そのうえ誰もいない。
サイアム駅へ戻ろうと路線図を確認するのだが分からない。不思議なことに昼は簡単だった路線図がタイ語ばかりでまるでわからない。異世界に踏み入こんだようだ。いったいここはどこなんだ。気持ち悪さと怖さが込み上げてくる。こんなときに誰かに襲われたらどうしよう。

若い兵士は笑って教えてくれた
海外でこういうときに独りになるのは怖い。焦ってむやみやたらに歩いていると小銃を構えた兵士がいた。小柄だが精悍な顔つきで強そうだ。だが仕方がない。「サイアム駅へきたつもりが、ここがどこか全くわからないのです」「ここはシーロム、サイアムではない」強面な顔に笑顔が広がる。
「ヒア、シーロム」「サイアム、ディファレント」「コップンカップ」焦りが消えた。銃を持った兵士と一緒なのだから安心このうえない。彼の笑顔は純朴だった。このような青年がタイ王国を支えていると思うと、いい歳をして遊んでいる自分が恥ずかしくなる。忘れられない貴重な思い出になった。

旅の教訓 トゥクトゥクのぼったくりは挨拶のようなもの、値切ろう
ただもうBTSに乗る気はしない。駅を出てトゥクトゥクに乗る。「スクンピッドまでいくら」「400バーツ」日本人には400バーツという決まりでもあるのか。「200」「OK」まだまだ高いが仕方がない。ただただ早く帰りたかったのである。夜が更けると街の雰囲気は変わる。人通りの少ない場所は怖い。今度から深夜はタクシーで帰ろう。
「ねぇ、どうして」ぐっと身体を寄せてくる、髪の毛の匂いが鼻腔をくすぐる。「女性の魅力は若さだけじゃないよ」心ないことを言ってしまう。「ほんとに」と胸に顔を載せてくる。この問いも全ての女性に共通する。「なりゆきだよ」と言ってはいけない、返事が遅れてもいけない。返事が遅れて大バッシングを受けたのが東出さんだ。「ほんとだよ」と間髪入れずに答えねばならない。

女は、男と全く別の生き物である、とこの年になって分かってきた。男は本能で若い娘を求めるが、女は求められることを楽しむ。年を取っても女の本能は同じである。「うれしい、もう一度サービスしようかしら」彼女の手が動き出す。「ショートなのにいいの」と聞くとニコッと笑う。悪女の深情け、年増の深情けとはよく言ったものだ。眠いのだけどきっぱりと断れない自分がいた。
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