「それやったら、みんなでマレーシアへ来やはったらよいやん」その一言に男たちは、といっても3人だけだが顔を見合わせた。数秒の沈黙のあと「そやなぁ、そうしたら綾ちゃんとゴルフができるな」と一人が言った「みんなで行きましょうか」ともう一人が言う。彼女の思う壺だなと思ったが微笑みを向けられると「行きます」と言ってしまった。男とはなんと簡単な生き物だろう。

そうだ、女神に会いにマレーシアへ行こう
マレーシアへ来いといっても綾ちゃんはマレーシア人ではない。新地のクラブのママをやっていたが、いつの間にかマレーシアへ行き住み着いている。現地で商社に勤めているらしい。女は本当に逞しい生き物である。彼女は、年に数回日本へ帰ってくる、それに合わせて食事をする。女神の帰還である。
彼女は関関同立の後ろの大学を卒業した才媛で、身長が高くゴルフは80を切る腕前だ。おっさん達が束になってもかなわない。女神の手が一振りされると男達はクアラルンプール行きの飛行機に乗っていた。そのなかに調子に乗りきれない自分がいる。マレーシアはご存知イスラームの国り風俗は期待できない。

旅の教訓 マレーシアはイスラームの国である
マレーシアはマレー半島南部とボルネオ島北部からなる東南アジアの南の国である。首都は泥の川が交わる所を意味するクアラルンプールだ。マラッカ海峡という要衝に面しているために古くから多くの国や民族が勃興した。もとは仏教やヒンドゥー教徒が暮らす土地だったが、13世紀にアラブの商人が入植してイスラム化した。
1400年にマラッカ王国が成立、大航海時代になると1511年にポルトガルがマラッカ王国を征服する。鉄砲もフランシスザビエルもここからやってきた。第二次世戦後の1963年になって、マラヤ連邦とシンガポール、イギリス保護国北ボルネオ、イギリス領サワラクが統合し連邦国家マレーシアとして独立する。米国ではケネディ大統領の暗殺、日本では鉄腕アトムがテレビ放送された年である。1965年シンガポールが独立し今のマレーシアになった。
マレーシアは多民族国家でもある。人口の6割をマレー系、3割を華人系、1割をインド系が占め、その他ボルネオ島などに少数民族が居住する。国教はイスラム教で、イスラム教徒と婚姻した場合は非ムスリムもイスラムへ改宗しイスラム風の名前を名乗らなければならない。現地でマレー系の美女に惚れて結婚したらイスラム教徒にならないといけない。イスラムの国はなかなか難しいのだ。

クアラルンプールの風俗は種類が多い
今回の旅はクアラルンプールに3泊、近郊のゴルフ場で2プレーし夜は食事を楽しむ予定である。もちろん女神と一緒である。旅のメンバーは、みな経営者でお金持ちである。すごく上品とは言えないけれど夜の探検をもっぱらとする人間とは一線を画す。
関空からクアラルンプール国際空港までは約7時間半、夜の楽しみを調べながらビールを飲む時間はたっぷりある。風俗のジャンルは、SPA、援交バー、エスコートクラブ、フードコート、置屋、KTVだ。安全なのはSPAである。料金が明瞭で終わった後に汗も流せる。援交バーはタイやベトナムのバービアをもう少し上品にした感じらしい。フードコートは名前の通り街のフードコートで声をかける、立ちんぼの変形である。
KTVはカラオケだけで一緒に帰れない。置屋やフードコートは安いが(2000円~3000円)衛生面や交渉を考えるとハードルが高い。となるとSPAか援交バーになる。SPAの予算は1万円くらい、援交バーは2万円くらいだが美人が多いという。今回の目標はやっぱり援交バー一択か。

旅のお勧め クアラルンプールの日本食は絶品だった
一日めの夜はマレーシアに暮らす女神のために日本食となった。綾ちゃんと合流しヒルトンホテルへ向かう。「ありがとう、ここ来たかったの、アラカルトで良い?」と女神が微笑むと値段の不安はマラッカの風に消えた。
乾杯のあと「明日はテンプラーパーク・カントリークラブへ行って、夜はニョ二ャ料理を食べます。明後日は、パーム・ガーデン・ゴルフクラブ、その後はマレー料理です、予約しておきました」と発表があった。全てが女神の手のひらの上である
料理は本格的で女神も満足そうに微笑んでいる。店名は「池輝」名前の通り料理はイケていたが値段もイケていた。「明日、ゴルフ場のお迎えがホテルへ行きますから乗ってね」微笑みだけで2万円近く、なんともはや。「さぁ、どうしましょ」「今日は疲れたし明日に備えて帰りますか」そうなりますよね。

旅のお勧め マレーシアのゴルフ場って良いんじゃない
和食を食べた翌日にテンプラーパークカントリークラブとはよくできている。ゴルフ場はジャンボ尾崎が監修した。コースを評価できるほどの腕ではないが、戦略性に富んで面白かった。大きな岩山がある景色も素晴らしい。食事も美味しかった。
南国のコースは気温と豊富な雨のお陰でグリーンがいつも青々としている。お値段は曜日やスタート時間で異なる。休日は2万〜2万7千円くらいでちょっとお高めだが価値はある。お迎えもあるし街から30〜40分で行ける、マレーシアのゴルフ場っていいんじゃない。
早いスタートだったので夜まで時間が余る。みんなは昼寝をするという。ベッドに寝転んでいると、せっかく旅に出ているのにもったいない気がしてくる。援交バーは夕方からだからちょっと早い、SPAは明日行くかもしれない、ハードルが高そうだがフードコートへ行ってみよう。

旅の教訓 フードコートは意外とハードルが低かった
スマホを頼りにPUDA駅までやってきた。クアラルンプールはシンガポールに次いで治安が良いらしい。それでも一人歩きは緊張する。明るくて良かった。フードコートは大きな建物で賑やかな音楽が流れている。色んな店がありテーブルや椅子がたくさん並んでいる。お祭りの会場のようだ。
タイガービールと串焼きを買って周りを眺めるとそれらしい女性がいる。中国系が多く若い娘はいない。そのうち黒いミニワンピースの女性がやってきた。30才は超えているだろう。「ハロー」「ハロー、イングリッシュOK」「OK」ときたが、マッサーは分かったが後は何を言ってるかわからない。もじもじしていたらぷぃと行ってしまった。
あっさりしているなぁ、とまた見回すと女性が一人こちらを見て笑っている。白いシャツにジーンズ姿、40才に近そうだがいい女のオーラが出ている。笑いを返すと席を立って近づいてくる。「ハーイ」「ハイ」「ジャパニーズ?」「イエス」「マッサー?」「ハウマッチ」「ワンハンダ」ワンハンダはワンハンドレッドリンギットらしい。

旅の教訓 援交バーは閉鎖中
年はいっているが、セミロングの黒い髪、菱形の顔をした中国美人である。だが即決するのは躊躇する。彼女もそれほど積極的でない。「フラれたね」と笑う。「そうみたい、お腹減ってない」「ごちそうしてくれるの」「うん、僕のビールも買って来てくれたらね、君の飲み物も」「ありがとう」50リンギット札を渡す。屋台へ向かうお尻が綺麗だ。
彼女がビールを持って戻ってくる。「食べ物は」「持って来てくれる」「ビールを呑んでいいの」「中華系だから」「そう」「あんた変わってるね、ここはする所だよ」「そのつもりだったんだけどね」「私がおばちゃんだから、女は顔じゃない、若さが一番ね」と少し疲れた顔をする。もちろんこんなにスムーズに会話が進んだわけではない。お互いカタコトの英語である。
「そんなことないよ、美人だよ」「ありがと、コロナの前はビーチクラブへ行ってたんだけどね、若い子には勝てないしベトナム人ばかりになるし、それに閉まったままだし」えっ、援交バーは開いてないのですか。彼女の前にナシアヤムが置かれる。「もう一杯いい」「いいよ僕のもお願い」立ち上がるときに胸の谷間が見える、大きそうだ。

熟女は少し疲れていた
「マッサーいいの」「もうちょっと話していい」「変な人だね、いいよ」コロナの間は生活が大変だったそうだ。「男はどうして若い女ばかり追っかけるのかしら、自分は年寄りのくせに」「そうだね」「もう一杯いい」「いいけど、君は大丈夫」「大丈夫、今日はもう帰るから、たまに休んでも神様は許してくれるよね」立ち上がりながら肩に手をおいてくる。下半身に電流が走る。彼女がどんどん綺麗になってくる。
彼女の後ろ姿を見ながら、鬼平犯科帳の凶賊の章を思い出していた。長谷川平蔵は芋酒が評判の居酒屋を訪ねる。平蔵が芋膾に舌鼓をうっていると、夜鷹のお紋が店に入ってくる。主人の九平がお紋に遠慮しろというと「いいじゃねぇか、俺たちゃみんなおんなじ人さね、さぁさ一杯奢ってやってくれ」お紋は商売になるかと色気を見せる。
「いやぁ、俺ももう年でな、そっちの方はからきしだ、話相手になってくれりゃいいんだよ」「嬉しゅうござんす、お侍様、同じ人なんて言ってくれて」商売から離れるとお紋の顔には相応の年と苦労が浮かんでいる。平蔵が帰り際に心付けを渡すとお紋は涙を浮かべて店を出ていくのだった。
「あんたも若い子がいいなら、見つけて来てあげるよ」「今日はゴルフでちょっと疲れてるのと」「なに」「あれが小さいんだ、見せて笑われたらどうしようと悩んでるんだ」ウケを狙ったのだが、彼女は真面目な顔をする。笑って欲しかったのに「悩むことないよ、日本人はたいてい小さいよ」だって。

旅の教訓 やる気になったが時すでに遅し、決断は早めに
いつの間にか彼女が横に座っている。肌が触れるのは悪くないけど、最近「昔はいい女だった」ばかりに当たるのは何故だろう。「マッサージ、今からでもいいかな」「いいよあんただったらサービスするよ、裏に部屋がある」ぎゅっと腕を掴まれる。
だが時計を見ると無情にも残り時間がない。思ったより長く話していたようだ。いたしていたらニョニャの時間に間に合わない。「ごめん、時間が無くなった」彼女が悲しそうな顔をする、この表情を見るのは辛いが嬉しくもある。早くしておけばよかったと後悔した。
その気持ちを振り切るように席をたち、100リンギットを渡す。彼女はキョトンとして「何もしてないのに」「いやいや色々と話を聞かせてくれたじゃねえか」心ならずも平蔵になってしまった。「あんた変わっているね、でもいい人だね」風俗の場合いい人はけっして褒め言葉ではない。
「またきてよ、サービスするから」と笑う。「笑顔も可愛いね」「バカ」急ぎ足で駅へ向かう私を見送ってくれた。「俺ももう年でな、あっちはからっきしだ」になってしまったのかと心配になったが、心は満たされた。もっと早くお願いしておけばなおよかった。
好みはあるだろうが、フードコートのハードルは余り高くなかった。夕暮れの風が心地よい。

ホテルへ帰るとみんながロビ−で待っていた。「何処へ行ってたんですか」「ちょっと探検とビ−ルが飲みたくて」「良い所ありました」と質問が来る。「良い所に行ってはったんやね」女神は何でもご存知だった。
最後までは行けなかったが、フードコートで過ごしたひと時は悪くなかった。だが綺麗なお尻を思い出すと後悔がやってくる。(続く)
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