腹ごしらえをしていよいよ烏山頭ダムへのアプローチである。タクシーかバスか悩んだ末に節約してバスを選んだがこれは失敗だった。台南芸術大学行きのバスに乗る。車窓から見えるのは豊かな農地である。ダムができる前はどのような景色だったのだろう。八田技師は荒涼とした草原を見て何を思ったか。責任の重さに押しつぶされそうになったかもしれない。

当時の台湾は日本になったとはいえ人も社会も文化も違う。そこで地元の人々を豊かにするために大々的な土地開発を行う、戦前の日本人は現代人より遥かにグローバルな意識を持っていたようだ。
40分ほどかかって烏山頭水庫でバスを降りる。やっと来たかと感慨深い。さぁ見るかと意気込んだが物凄く広い公園だった。案内板に書かれた場所を歩いて回ると2〜3時間くらいかかりそうだ。烏山頭ダムは、日本の黒部ダムなどと違いロックフィルダムというたくさんの石と土で作られているから大きくて広い。観光地というよりハイキングコースだ。全て見るにはタクシーが必要だった。2時間1000元なので利用したら良かったと後悔した。

旅の教訓 八田技師記念館は必ず見よう
全て見るのは諦めた。八田技師記念館と機関車と銅像をみて元気があったら堤のところから湖を見ようと決めてトボトボと歩き出す。ここで水庫とはダムのことだと気づく。お金を貯めるのが金庫、水を貯めるから水庫、なるほどね。ちなみに入場料は100元だった。
八田技師記念館では八田技師の人格に圧倒される。建設は徹底的に台湾ファーストだった。工事はみんが幸せに働けるように福利厚生の施設や宿舎、学校、病院の建設から始めている。工事は1920年に始まり、大きな事故や関東大震災による予算削減などの苦難を乗り越え1930年に完成した。予算削減で従業員を解雇する時は「有能な者は直ぐに仕事が見つかるから有能な者から解雇する」として再就職を懸命に探した。そんな展示を台湾の人が熱心に見ていた。
次に湖を横にみながら銅像の場所に向かう。銅像は写真の通り座って足を伸ばして考え事をしていた。工事中もこうだったのだろう。銅像の視線の先に珊瑚潭がある。ダム湖の珊瑚潭は面積が58キロ平米ある。琵琶湖の10分の1くらいだ。複雑に入り組んだ形が珊瑚に似ているから珊瑚潭と呼ばれる。湖のところどころに島が浮いて遊覧船が走っている。
空が広く心が開かれるような風景である。完成したダムに満々と水が溜まるのを見た人々の気持ちはいかばかりだったか。水が溜まって行く様子を毎日見に来た人もいただろう。放出された水が水路に溢れたときは日本人も台湾人も共に歓声をあげたに違いない。湖は八田技師が尊敬を受けるに値する光景だった。銅像の近くにダム建設で殉職した134名の人の殉工碑がある。台湾の人たちと一緒に合掌した。

烏山頭ダムは贅沢な時間が流れていた
またトボトボと堤のところまで歩いて行く。暑さは耐えられないほどはないが水がほしい。外国の公園に自動販売機がないのは何故だろう、と思いながら歩いて着いた堤で湖を眺める。太平洋戦争以前、日本の領土は北は樺太からアリューシャン列島、南はトラック諸島、パラオまで及んでいた。その広大さを想像するとクラクラする。日本は各地で住人たちのためにインフラ整備を行った。北朝鮮にも現役のダムがあるそうだ。烏山頭ダムもその一つである、なんだか誇らしい。
烏山頭ダムは良いところだった。同じ人間なのに八田技師のような偉人もいれば自分のような凡人もいる、いったい人生のどこで違ってくるのだろう。珊瑚潭に問いかけても、そんなおっさんの戯言に答える義務はないとばかりに静まりかえっていた。
吊橋とか天壇とかもっと見どころはあるがこのあたりが潮時だ。日の高いうちに帰ろう。また歩いてバス亭に戻って一人ポツンとバスを待つ、随分長い時間待っていた。子供時代に行った田舎のバス停を思い出す。時間を忘れている、これってとても贅沢なんじゃないか。

せっかく台中まできたのだから寄り道してスパへ
またバスに乗って新営駅、嘉義駅まで帰ってきた。高鐵の嘉義駅にくると、せっかくここまで来たのだから台中によって噂のマッサージでもして帰ろうと切符を買ってしまった。ダムで考えたことをもう忘れている。ネットで調べて有名な店に行く。値段は1600元(くらい)だった。そこで出会ったのがリーファちゃんである。
「韓国からきてるの」「わかる、嫌?」「そんなことないよ」「ここは中国やタイの娘もいるよ」「そうなんだ」「韓国はどこから」「釜山から」韓国女性はたいてい釜山というから信疑はわからない。「小娘でもアガシでも気持ちよくしてくれたら良いよ」
リーファちゃんは笑って、ここがしおどきとばかりに軽くハグしてタオルと紙パンツを渡してくれる。自分でシャワーを浴びなさいということだろう。せっかく台湾まで来ているのに、それも台中なのに残念だなぁと思いながらも、あそこはしっかり元気になり頭は水を弾いていた。

マッサージは絶品だった。身体のコリがみるみるとれていく。やがて紙パンツがどこかへいってしまった。柔らかい手に包まれるともういけません。こみ上げる快感に包まれながら、今日もこうして道を外してしまった、この積み重ねの結果が今の自分なのだと思う。珊瑚潭の風景が蘇る。まぁいいかと目を瞑った。


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