日本 神戸福原ソープ街、柳筋は魔界への入口だった

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四畳半の畳の部屋に布団が敷かれている。天井に吊るされた赤い裸電球のせいで全てが赤い。これはどう見ても戦前の建物である。部屋の片隅にこちらも戦前生まれと思われる女性が笑みを浮かべている。60歳は優に超えているだろう。その当時は60歳以上の女性の裸などを見たことが無かったので彼女の年は分からなかった。

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旅の教訓 風呂上りのビールは美味い、新開地の中国料理は安い

「したいことをしてええんよ」赤い光に照らされて色がわからないワンピースを脱ぎだした。白いブラジャーとガードルも赤く染まっている。脇からお腹から余った肉が苦しげにはみ出していた。「あんたみたいな若い子はほんま久しぶり」ブラジャーを外すと垂れた大きな乳房が出てくる、ガードルを無理やり脱ぐと黒々としたものが現れた。「はやく」目が滑りを帯びて光っている。食べてあげるといわんばかりだ。にんまりと笑うと手があそこに伸びてくる。ここは本当に現実の世界なのだろうか。

これは遠い昔の話である。西ノ宮北口に住んでいた頃、風俗を覚えて神戸の福原によく行っていた。新開地という地名や戦後の面影が残る雰囲気も好きだった。神戸や横浜のような古い港町は他の大都市にない独特の風情が漂っている。石原裕次郎や小林旭が活躍した日活映画の無国籍感とちょっと危険な匂いがする、そんな街が好きだった。

今はもう阪神電車は阪急阪神ホールディングスになり、駅周辺の少し怖いような感じはなくなった。街には中国料理店が増えたような気もするが定かではではない。神戸中央信用金庫の建物が当時の雰囲気を残しているだけだ。その交差点から少し歩くと新開地の商店街が見えてくる。その隣に福原桜筋と柳筋の看板がある。

この通りに挟まれた一画は、60軒近い大人のお風呂屋がひしめきあう西日本有数の歓楽街である。ちなみに新開地の中華料理は値段が安く美味い。風呂上りのビール、と言っても長く湯に浸かるわけではないが、美味いのである。

旅の教訓 知らない店はリサーチが必要

風俗の童貞という言い方はおかしいかもしれないが、それを捨てたのが福原のソープ「いろは」だった。筆下ろしをしてくれた女性のボールのような丸い胸を今も覚えている。つき合っていた彼女と違うプロの技に嵌って何度も通った。そのうちに奇妙な体験をする、その夜はボーナス支給日だった。いつもより懐が暖いので「いろは」より高級店に入った。迎えてくれたのはやせ型の女性、この時少し嫌な予感がした。

部屋に通されお風呂に浸かりながら話をしていると女性の機嫌が明らかに悪くなってきた。「ここは、あんたみたいな若造が来る所じゃないよ」という感じだ。感情は伝染する、ミラー効果というやつである。こちらも気分が悪くなってくる。「こんなギスギスのおねえちゃんに金を払って怒られなあかんのや」である。私は風俗でカモと言われるほど温厚である。何が彼女の気に触ったのか今でもわからない。

女性の機嫌はどんどん悪くなってくる。耐えかねて帰るといって服を着だしたら「あんたみたいなダボはさっさと帰れ」と怒鳴り出す。いくらなんでもこちらは客なんだけど。店の玄関に向かうと追いかけて来て「あほんだら、二度度来るな」とか叫んでいる。歩いている人が驚いて見ている。

腹が立つやら恥ずかしいやらで逃げ出した。少ないボーナスの大半は消え去った。20数年後ベトナムのニャチャンで同じような体験をするが、そこには愛らしきものがあった。ここには〇ん毛一本ほどもなかった。今日はついてなかった、いろはに行けば良かった。息子よ、愚かな父を許してくれ。

魔界に踏み入った夜

「おにいさん、遊んでいかない」トボトボ歩いていると声がかかった。ソープではない建物の前に一人の女性が立っている。容姿は明るい入口を背にしているのでよくわからない。「いい娘がいるよ」「いくら」聞くと充分に足りる金額である。さき程は腹がたったがあそこはたたず満足もしていなかったので上がってしまった。彼女について階段をトントンと登る。

京都の大学に伝わる昭和の歌に、〇〇大学小唄がある。その歌詞の終わりは、13階段トントンと上り詰めたる4畳半、あなた上からフジの花、わたしゃ下からユリの花、よいしょよいしょのその後で十八島田の言うことにや、わたしゃ元から女郎じゃない・・・となる。そんな戦前の雰囲気が漂っている。十八島田というのは十八は歳、島田は若い娘が結う髪型をいう。このとき既に異界に入っていたのだろう。

おばさんは一緒に部屋に入ると笑みを浮かべて立っている。十八島田はどこにいる。ひょっとしたらあんたがいい娘か、おばさんは笑みを深め嬉しそうに頷いた。なんて一日なんだろう。天を仰ぐと赤い電球が下がっている。もうやけくそである。おばさんは赤い光に肌を染めて積極的だった。あれやこれや要求してくる。これではおばさんが客で私がホストではないか。お金を払って欲しい。

おばさんは、よいしょよいしょで満足したのか、汗ばんだ肌をよせて少し息を乱しながら私の胸を撫でている。「よかったわ、久しぶり」金歯が光る。「おにいさんもたくさん出たね」不覚にも気持ちが良かった。胸を撫でていた手が下のほうに下がってくる。彼女は上目つかいに見上げたあと恥ずかしそうに私の胸に顔を埋めて囁く。「もう一回いいのよ」もう現実の世界に戻れない、きっと。

福原はパワースポットである

若い娘なら何度でもこたえた願いを振り払い外にでると、そこは異界でなくいつもの福原だった。ボーナスシーズンとあってたくさんの人が歩いている。振り返ると異界の建物は消えてなく、なっていなかった。玄関先で日本髪を結った着物姿の若い娘が手を振っている。彼女は誰だろう、十八島田は本当にいたのか。見直すとおばさんが嬉しそうに手を振っていた。魔物は幻覚を見せるのだ。

今福原は、福原京の名前と雪見御所旧跡の碑が残るだけだが、平安時代の末期、平清盛が福原京をつくり遷都しようとした土地である。平家の経済力の源泉である日宋貿易の拠点である大輪田泊も近い。ソープ街は御所と港の途中にある。平清盛は強烈なパワーを持った人物である。その清盛が天皇を招こうしたのだからただの地ではない。パワースポットなのだ。

昔からパワースポットは異界と近いといわれる。平安時代初期、京都の小野篁は六道珍皇寺の井戸を冥界に繋げて閻魔庁に出勤していた。ソープ街もまた力の強い場所にあり、そこに日夜男の精が放たれている。男の精は陰のパワーを秘めている。その陰の気が溜りに溜まっている。魔界が出現してもおかしくはないのである。

再び訪れたとき、あのおばさんが立っていないかと探したが見つからなかった。まぁ興奮して歩いていたのではっきりと場所を覚えていたわけではない。今となってはあの夜のことが本当だったかさえ自信がない。ただ赤い光のなかで「もう一回いいよ」といった彼女の言葉と、はにかんだ笑顔を思いだすだけである。

いったいあの夜はなんだったんだろう。はじめの嬢の理不尽な怒り、待っていたようなおばさん、全てが準備されていたのかもしれない。あの階段は異界に繋がっていた。戻ってこれたのは運が良かったのだ。ただあの夜以来、熟女にしかモテなくなった気がする。

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