私は呆然として立ちつくしていた。つい先程まで女性が運転するバイクに乗せられていた。バイクは街路樹が並ぶ通りの角を曲がって遠ざかっていく。バイクを運転する白いヘルメットの女性が笑顔で手を振っている。いったいなんだったんだ。お尻のポケット入っていた財布は彼女と一緒に去っていき、残ったのは柔らかい胸の感触だけだった。
旅の教訓 ホンダガールに財布をすられた
「あやつ、なかなかやりおるわい」時代劇ならそういうところだ。夜のベトナム、ハノイ駅近くの通り、店はとうに閉まり真っ暗な歩道に立ちながら笑いたくなった。こんな誘いに引っかかる自分の好き者ぶりがおかしい。
「Người Nhật dâm dục và dễ làm（Google 翻訳）」彼女は今夜の稼ぎは良かったと笑っていることだろう。私といえば、遠くへ連れて行かれて身ぐるみ剥がれてもおかしくないめに遭っているのに不思議と恐怖が湧いてこない。それどころか何か可笑しくなってくる。こうなった理由は数時間前に遡る。
今日７人でハノイにやってきた。夜まで時間があったのでホアンキエム湖の湖畔をブラブラと散歩する。観光客だけでなく地元の人達も岸辺をのんびりと歩いている。観光名所の玉山祠をお参りしてから、湖畔に座りで景色を眺めながら３３３（バーバーバー）ビールを飲む。地元のビールを片手に夜の出会いを想像する、外国旅行の最高のひとときである。
夕食が終わると、４人のオヤジはいそいそと夜の街にくり出した。ハノイはホーチミンより規制が厳しくKTVが少ないらしい。更にベトナムのKTVは持ち帰りできないと聞く、実際はどうなのだろう。だが蛇の道は蛇、男の欲望は万里の長城でも止められない。探すとあるものだ。店は客が多いのか女性の数が少ないのか、経理を担当する女性までが接客に駆り出されて来た。
直ぐに経理部長と名付けられたこの女性、熟女だが物凄い巨乳の持ち主だった。不覚にもこの柔らかく盛り上がった巨乳に魅了されてしまった。これが後の悲劇の元だった。
旅の教訓 ハノイ ライセンスの無い女性はホテルに入れない
ハノイのKTVは一緒に帰れないらしいが、ここは大丈夫のはず、ダメ元で交渉をしてみると求めていることは店も女性も同じだったようで話はすぐに纏まった。経理部長だが接客担当ではないから無理かなと思ったが簡単にOKとの返事。平静を装うが内心大喜びで下半身が早くも反応する。女性達は店が終わってからホテルへやって来る。帰りのタクシーの中で話が弾むがこの会話ほんとに下品です。
いよいよあの巨乳を生で拝める。あそこは少し硬度を増し顔は緩む。シャワーを浴びて準備を完了するとロビーから電話が入る。はしゃぐと幸運が逃げていきそうなので静かに受話器を取る。告げられたのは予想もしないことだった。「客室に入れてもらえないの」
要領を得ないのでロビーに降りると彼女が豊満な身体を寄せてくる。弾力のある胸が押し付けられたまりません。彼女の視線がカウンターのフロントマンに向けられる。短い髪に一重の目が厳しい。彼はにやける私にまっすぐ視線を向けて、重々しく宣告した「彼女はライセンスカードを持っていない、そんな女をいれたら俺の首が飛ぶ」本当にそんなライセンスがあるのか。
彼の眼は更に厳しい光を放つ。ここは共産主義国家の首都だと告げている。取り付く島がない。引き下がるしかなかった。彼女にタクシー代とチップを渡し残念そうに帰っていく後ろ姿を見送る。他のメンバーは女性と一緒にエレベーターに去っていく。もう、みんな自分たちのことしか興味がなくなっている。
独りロビーに残されたがどうしよう。フロントマンと目が合う「気持ちはわかるよ」というようにニヤリと笑う。何だか腹がたつし悔しい。酒でも飲もうと外へ出た。
旅の教訓 ホンダガールに気をつけよう
ホテルから出たものの店は殆ど閉まっている。今日は本当についてない、ホアンキエム湖の湖畔で胸を弾ませたひととき、経理部長がOKと言った一瞬の歓喜は何だったんだ。やりきれない気持ちで歩いていると傍に一台のバイクが止まった。
白いヘルメットに白いフリース、ジャージ姿の女性が乗っている。張り切った太腿がなんとも色っぽい。でもなんだろう。彼女が声をかけてくる。「さびしくないですか」頭の中で警報が鳴る。「遊びませんか」警報のスイッチは簡単に切られた。
「ここへ乗って」理性が欲望に勝つことはめったにない。バイクの後ろに跨り彼女の腰に手を回す。「危ないですよ」胸に手をのばしても許してくれる。柔らかい胸とブラジャーの感覚、期待は限りなく膨らみあそこも膨らんでいく。どこへ連れて行かれるのか分からないのに、危険はとうに忘れている。後に聞いたのだが、彼女はホンダガールと呼ばれる評判の良くないプロだった。しかしこの時点では知らない。
彼女はバイクを暫く走らせると街路樹の傍に止めて降りるよう促してきた。彼女もバイクを降りて樹を指差さして微笑む。ひょっとしたらここでするの。街路樹は直径は２０センチもない。私のものより太いが隠れようもない。「ここで、ヒア？」日本語と英語のごちゃまぜである。こんなところでした経験はない。街路樹の陰でするなんて経験があるほうが少ないだろう。
彼女は再び微笑みながらうなずく。せっかくだからと覚悟を決めたとき、車のヘッドライトに照らされた。やっぱり無理と憐れみを乞う。彼女はアルカイックスマイルを浮かべながら後ずさりしてバイクに跨る。そしてにっこりと笑って去っていった。一瞬だった。
いったい何だったんだと呆然とする、あっと思ってポケットを探ると案の定、財布は消えていた。残っていたのは柔らかい胸の感触だけ、いつ抜かれたのか全くわからない、鮮やかな技だった。
旅の教訓 お金は分散して持とう
だが私にも多少の知恵がある。現金は残っていた。財布は無くしてかまわない旅用の物で、入れていたのは日本で必要になるかもしれない2000円だった。大枚の1500万ドンとクレジットカードは生でポケットに入れている。盗られた悔しさはあるが被害は小さい。彼女にとってはまぁまぁの稼ぎだったのではないか。空でなくて良かったと妙なことを心配をする。
ついていない夜だったが、経理部長とホンダガールの笑顔を見られた。「夜に女性のバイクに乗ってはいけない」という教訓も得た。これくらいで済んだのだからまぁまぁ良い日だったのかもしれない。貴重な教訓だったはずだが翌日すぐに破られる。男は馬鹿なのである。
感慨深い夜だったが、こんな遅い時間にこんな場所にいるのは危ないのじゃないか、急に怖くなる。早く帰ろう。
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