朝食を取ろうとレストランへ行く途中、友人がフロントの女性と話し込んでいる姿が見えた。友人の顔はいつになく真剣である。女性の方は気乗りしない電話をかけだした。どうやら彼に頼まれたらしい。彼女が日本語が話せないのはチェックインのときに分かっている、彼は英語が話せない、いったいどのようにしてコミュニケーションを取っているのだろうか。

女性フロントはきれいなインド系美人
記憶が曖昧いなのだが、上海の浦東シャングリラホテルの上階に一階とは別のチェックインカウンターがあった。私たちが宿泊したとき、カウンターに座っていたのはとびきり綺麗なインド系の女性だった。ただ彼女の美しい唇から発せられる英語はとても聞き取りにくかった。
彼女は受話器をおろすと困った表情で首を振った。美人の困った顔は心にぐっと来る。彼女が何か話すと友人は慌てて部屋に戻っていく。彼女に見とれて彼を助ける機会を逸してしまった。
なぜこんな高いホテルに泊まっているのか、高級ホテルなら夜の女性と一緒に帰っても公安警察に目を付けられにくいという理由だった。ほんとうだろうか、却って危ないような気もするが、同行した顧客が言うので仕方がない。今回は仕事なのだ。
珠海で日本人の団体が大馬鹿騒ぎをやっていた頃である。公安警察に捕まるという噂はあったが実際に捕まった人を知らない。パスポートに恥というスタンプを押されるそうだが、押されたパスポートを見たことがない。現在と比較できないおおらかな時代だった。今の中国は世界の人が嫌うことばかりしている。困ったものだ。
仕事で来ても少しは観光もしたいのが人情である。昨日は仕事が早く終わったので黄浦江の河岸を散歩した。長江の支流だそうだが支流とは思えない大きさである。河岸はウッドデッキになっていて、散歩をすると河を渡る風が気持ち良い。地元の人たちもたくさん散歩している。有名な観光地も良いけれど街の人達がくつろぐ場所も悪くない。
人がなぜ大河の傍に文明を築くのか分かる気がする。水運の便利さだけではないだろう。売店でコーラのような飲み物を買った。

旅のおすすめ 外灘は一度は行くべき
日が暮れたころに外灘へ出かける。浦東から外灘へは、黄埔江の地下を走るケーブルカーで渡る。トンネルは中国らしい花飾りとイルミネーションで装飾されその中を可愛い電車が走る。その光景は米国のTV番組「タイムトンネル」のようだ。乗ってみる価値はあるが往復70元はちょっと高い。
外灘は第二次世界大戦以前、米国と英国の共同租界地であった。租界地は植民地に作られた治外法権の場所である。西欧諸国はそこに銀行や商社を置き東アジアの金融ハブの中心とした。その歴史から古い西欧建物がたくさん残っていて今は上海有数の観光地になっている。古い建物は内部を改装され、おしゃれなレストランやバーになって楽しませている。
清国末期から中華民国に至る頃、上海は混乱した無秩序な社会で、世界中から一攫千金を狙う有象無象の人間が集まっていた。経済人、商売人、犯罪者、軍人、黒社会、各国のスパイが暗躍し、芸術家や作家が蠢く欲望が渦巻く魔都だった。男装の麗人川島芳子、李香蘭も活躍した。人は理性が否定しても欲望溢れる街に感情的に惹かれる。
外灘のレストランで、空芯菜の炒め物を肴に生暖かいビールを飲んでいると想いはその時代に帰っていった。命は惜しいが、あの狂騒の社会に生きたらどような気分だろうか。ナイトクラブにジャズが響き女性たちの嬌声がこだまする。あらゆる種類の人間があつまり剣呑な黒社会の人間が支配する、少し間違えば命を失う場所だ。そこで飲む酒はどんな味がするのだろう。今より生きていることを強く感じるに違いない。

中国美人はフェミニズムと縁がない
妄想のなかで強い酒がまわってくる。娼婦が酔ってしなだれかかり「ねぇ〜、今夜はどうするの」と甘えた声をだす。きつい香水の香りが欲望を刺激する。これは一緒に帰らないといけないと思ったとき「もう行きますよ」と無常な声が妄想を断ち切った。空想でなく生身の欲望を満たす時間がきたのである。胸のポケットのトンネルのチケットが音をたてる、KTVの帰りにまた乗るのだろうか。外灘は一度は行ってみたい場所である。
次は南京東路の日式KTVである。日式といっても、女性と歌を歌ってから一緒に帰る素晴らしいシステムで日本には無い。「いらっしゃいませ〜」指名をする緊張感がたまらない。「はじめまして〜出張ですか」「うん出張だけどちょっと長いんだ」「上海はよく来ますか」「3ヶ月に一度くらいかな」まず小娘の値踏みから始まる。
一見さんより何度も出張で来るほうがモテるはず、という浅はかな考えで長期出張と話を膨らます「どこから来てるの」「成都から」「やっぱり、スタイルいいからそう思った」「飲み物いいですか、それと何か食べますか」「酢につけた唐辛子」「わたし好き!」もちろん私の唐辛子を好きと言ってるわけではないが好きと言われるのは嬉しい。
中国女性の美醜の差は大きい。南方系の小柄な女性から北方や西方の大柄な女性まで実に色んな人がいる。美人は徹底的に美人でありスタイルの良い小娘は徹底的にスタイルが良い。容姿は収入に大きく影響する。中国人はフェミニズムに興味がない、あくまでも現実が全てで美人は儲かる。
長い手足に小さな顔、そのうえ巨乳の小娘が傍に座ってくれるのだ。当然、行きの三人は帰りに六人になる。今夜指名した小娘はスタイル抜群の美人のだったが素朴さを感じる女性だった。日本なら到底付き合ってもらえないレベルである。そんな子娘がいま部屋に一緒にいる。
シャワーの音が止まりバスルームから彼女が出てくる。バスタオルを巻いた姿が、大きな窓に街の灯りと重なって映っている。酔っているのか紅潮した顔が艶っぽい。さすが三大美人を産んだ国の女性と感心する。三大美人は、春秋戦国時代の西施、後漢の貂蝉、唐の楊貴妃である。彼女たちにその美しさを称えるエピソードが残されている。

中国は美人の産地なのだ
春秋戦国時代、西施が川辺で洗濯をしていると、美人も選択をするのだ、彼女を見た魚があまりの美しさに泳ぐことを忘れ川底へ沈んでしまった、このことから沈魚美人と言われる。恋人の目にはどんなぶさいくでも彼女が西施に見えるという「あばたもえくぼ」の語源になった美女でもある。
後漢の美人、貂蝉は三国志で有名だが架空の美女である。貂蝉が花園で月を眺めていると、月がその美しさに恥ずかしくなり雲を呼んで姿を隠してしまった、閉月美人と言われる。ちょっと微妙な字(あざな)であるがそれくらい美人だった。
唐の楊貴妃貴は有名である。彼女が花に触れると花が恥じらい頭を下げてしぼんでしまう。「花も恥じらう乙女」は彼女から来た。クレオパトラ、小野小町と共に世界3大美人にもランクインしている。彼女は玄宗皇帝に寵愛されたが、安禄山との不倫で安禄山の乱の原因にもなった。
彼女たちはどれくらいの美女だったのだろう。私が思いつくのは、台湾の林志玲(リン・チーリン)である。そんな中国美女がバスタオル姿で傍らにいる。私のアソコは、川底に沈むこともなく、恥じらってタオルで隠されることもなく、うつむくこともななかった。欲望は頂点に達している。彼女も見た目のおとなしさとは異なってとても激しく良かったのである。

パスポートを無くした友人
昨夜のことを思い出しながら食後のコーヒーを楽しんでいると彼がやってきた。先程とはうって変わった和んだ表情をしている。「朝から、汗かいちゃいましたよ」「えっ、彼女泊まりだったの」「違いますよ」「何だったの、さっきのフロント」「見てたんですか」どうして助けてくれなかったと言わんばかりである。
いったい何があったのか。昨夜の小娘は好みにピッタリすぎて年甲斐もなく頑張ってしまった。送り出すとすぐに寝てしまい、朝起きて金庫を開けたらパスポートが無い。ベッドの周りや上着のポケットを探したが見つからない。そのうち金庫に入れた記憶もあやふやになってくる。
彼はパニックなり昨夜の女性が盗んだと思い、電話をかけたが中国語だから要領を得ない。思い余ってフロントに頼んだそうだ。インド系美人に昨夜の話をするのは恥ずかしかったが、命の次に大事なパスポートだから仕方がない。本人にとっては笑いごとではないが、他者から見れば、パニックになった人間の行動は面白い。片言の英単語とジェスチャーで必死に伝えると、美人は戸惑いながらも女性に電話をしてくれた。
結果は、女性は知らないと言っている、盗んでいたら電話に出るはずがない(ごもっとも)お店だってわかっているのにそんな事をするはずがない(ますますごもっとも)女性はたいへん怒っていますだった。シードントノウとかベリーアングリーなどの断片から推測したそうだ。フロントの女性は受話器を戻すと落ち着いた声で「もう一度お部屋を探されたらいかがでしょう」と宣告した。

旅の教訓 パスポートの保管場所を考えよう
フロントの女性と話して落ち着き「女性が盗んだというバイアス」が無くなったのだろう。冷静に探すとパスポートは昨夜履いていたスラックスのポケットにあった。パスポートはいつも身につけていろと教えられる、彼もその通りにしていた。だが持って歩けば無くす危険も大きいし、殆ど必要がない。
なのに持っている必要はあるのだろうか。いろんな意見があるが泊まるのが高級ホテルなら金庫に入れて置くのが無難である。開かずの金庫になる可能性は少ない。預けて出かけるときはコピーを持っていれば十分である。あらかじめ金庫に入れておけば、女性と酔って帰って来てもパスポートを仕舞わなくても済む。昨夜の友人のようにはならない。どちらにしてもパスポートの管理はしっかりしないといけない。
私はオーガニックコットンのケースに入れて首から下げている。薄いシャツを着るとケースが透けてパスポートはここに有りますよの状態になる。返って危なさそうだが理由がある。大抵格安のホテルに泊まるので持ち歩くほうが安全なのだ。

彼の朝食が終わり部屋へと引き上げる。彼は歩きながら「今夜はどうします」と聞いてくる。「昨日の店は行きにくいね」「謝ったら良いんじゃないですか」「そうだね」彼女たちは諦めるには魅力的過ぎた。男はこの分野で少々の失敗は懲りないのである。そんなことを話しながらフロントの前を通ると、インド美人が笑っている。ほんとは日本語がわかるのじゃないのか。
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