砂浜の笑い声が小さくなると前から車やバイクの音が響いてくる。一緒に歩いているのは、昨日知り合った村上さんという初老の男性である。ブルックスブラザースのグレーのポロシャツに白いハーフパンツ、どちらも高そうなのをパリッと着こなしている。

パトンビーチで出会った紳士
かたやと言えば、ペラペラのレジャーシートをコンビニ袋を詰め込んで、何度も洗った横縞のシャツにユニクロの綿パン、どうみても財布の重さに差がある。村上さんは、若い頃から風俗好きだったそうで昨日の昼に出会い意気投合した。一緒に来た奥様はホテルで寛いでいる。
先ほどまでビーチの日陰で話していたが、不倫や痴情のもつれの話題になったとき、村上さんが「事件を起こす人の気持ちが分かるんですよね、妻にバレたときの気持ちもね」と呟いたのをきっかけに場所を変えることになった。誰でもこの手の話は興味を惹かれる。続きを早くと耳に力が入ったところで、飲んでいたビールが無くなった。ビールを買いに行きたいけれど話の腰を折りたくない。
そんな心を見透かすように「かもさん。河岸を変えませんか。昨日初めて会った方に話すのも変ですが話を聞いて欲しいのです。あなたのようにこの話が分かる人に会えたのも何かのご縁でしょう」「分かりますかねぇ、でも一杯飲むのは良いですね」」「すぐそこに有名なシーフードレストランがあるんです」
どうせ夜まですることは無い。風俗話とシーフードを肴に飲むのも楽しそうだ。でも初対面に近い私にそんな話をしていいのかな。この村上さん、気づかないうちに人の心にスルッと入ってしまう。女性にもてる男の特徴である。「この先です」少し歩くとロブスターの下に「Patong Seafood]と書かれた黄色い看板がでてきた。

旅のお勧め パトンビーチの近くのPatong Seafoodのロブスターは旨い
「ここはプーケットで有名なんです、カニとかエビは大丈夫ですね」店先の棚に氷に乗せられたロブスターが並んでいる。村上さんは慣れた様子で店員に何かを話して店に入っていく。店はオープンエアで広々として屋内とテラス席がある、テーブルの間が離れていて確かに話し易そうだ。テラス席を取り、まずビールを頼み、メニューからソムタム、空芯菜の炒め物、小エビ、さっきのロブスターを注文する。店員がキビキビして気持ち良い。
店先で頼んだロブスターは大きくて高そうだ。そんな心配を見透かすように「かもさん、ここは私の奢りで」「いやいや、そうはいきません」「今日は僕が話を聞いてもらうのですからお願いします」おっさんの会話である。「こんな話は知り合いにできません。だけど喋りたいときもある。かもさんに出会ったのは天恵です」そんな大層な、でも風俗話を自慢したい気持ちは良く分かる。
「ロブスター以外は安いから気にしないで下さい」お金の基準が違うような気もするが、心配しているうちに、テーブルにビールが置かれ、ソムタム、空芯菜の炒めもの、エビの焼いた物が出てくる。それらををつまみながら、ひとしきり自分のバイブ3連敗の話などを披露する。エビの焼き物が美味い。「やっぱりかもさんは玄人ですね」とひとしきり笑ってから、空いたグラスにビールを注いで飲み干した。

人生の教訓 女性に入れ込むと地獄が待っている
「馬鹿としか言いようがないですが、不倫みたいなことをして、それを自分から妻にバラしてしまったんです。7年くらい前のことですけれど。高級デリヘルの女性にハマってしまいましてね」「美人でしたか」「とびきりではなかったですが可愛い顔をしてました。それより最初に会ったとき、体の相性がたまらなく良かったんですね」顔が緩んでくる。
「彼女も僕を気にいってくれたようで、何回も指名してうちに食事や旅行する仲になりましてね。そうすると彼女が他の客を取るのが嫌になってきたんです」「風俗の客が嵌まる罠ですな」「客の男に嫉妬にして、彼女が抱かれるのが耐えられない。彼女は人気者で予約もなかなか取れない。爆サイをみると、生の基盤を簡単に許す嬢と書いてある。店は基盤専門とも書いてある、当たり前ですよね、自分だってさせて貰っているのだから。それでも自分が特別と思いたい」
「ラインでそれを問い詰めるとそんなことは無いと返ってくる。信じたい気持ちの反面、更に疑いが深まってまたラインをする。何をやってるんだと思うのですがどうにもならない。男が女に狂うというのはこういう事だと分かりました。
けれどどうにもならんのです。彼女もだんだん鬱陶しくなってくる、太客がウザ客になったのですから引き気味になる。そうなると余計追いかける。酒の量も増える、仕事も手につかない。もう地獄です」「少しわかります」実は同じくらい分かっていた。

人生の教訓 不倫話は妻に絶対してはいけない
「ある休日、家で酒を飲んでいて酷く酔ってしまった。当然妻はなじります。妻は、外見とは違ってお嬢様育ちで性生活は控えめでした。僕はもっと激しいこともしたいから不満があった」昨日会った夫人は、小早川玲子のように大柄で大輪のバラのような女性だった。胸もお尻も大きい肉体派である。
「そして彼女を独占できない欲求を妻にぶつけてしまった。お前の身体では満足できない。女はお前だけじゃない、もっといい女と付き合ってるんだ。ほんとは妻に対してそんな風に思っていないのに言葉が止まらない。満足させられないのだから休みに酒を飲むぐらい我慢しろ、とやってしまった」
「やってしまいましたね」「あのときの妻の顔、今でも忘れられませんよ」「それからどうしました」「修羅場です。妻は毎日泣くし、娘と長男はドメスティック・バイオレンスと同じだから離婚しろと言います。次男は風俗くらい放って置けばと擁護か非難かわからない態度です。そんな日が続きました。そのいっぽうで彼女とは続いていて嫉妬に狂う。あちらも地獄、こちらも地獄です」

妻の決心 愛とはこのようなもの
「あるとき妻が私の前に正座して何かを話そうとする、あぁこれはいよいよ離婚かなと覚悟しました。よく見ると随分やつれた顔をしている。本当に後悔しました。話を聞かないわけにはいかないので、こちらも座って真面目に聞いた。すると妻から出てきたのは予想もしなかった言葉でした」
「あなたのお相手はデリヘルの女性なんですね。お幾つくらいか知りませんけど負けませんから。デリヘルのことも調べました、本番とか生とか。それがお望みだったらやらしていただきます。負けません」と半泣きの顔で言ったそうだ。
「相手は30歳、勝てる訳がないが、パソコンで風俗を調べて決意した姿を想像すると「すまない」としか言えませんでした。それで一応普通の日が戻ったのですが、家計が大変なりました。妻は高額下着、数々の化粧品を買い出したのです」「宣戦布告ですな」「それに昼夜に関わらず積極的に迫ってくる。これも地獄です」と笑う。たしかにいつでも応じるのは大変である。「落ち着くまでに3年くらいかかりました」と話を締めくくった。

旅の教訓 旅先のは素敵な出会いが待っていた
「化粧品の効果はあったのですか」と頓珍漢なことを聞いてしまった。「そう効果はありました。派手だったのがより派手になりました」「たしかに」奥さんは艶やかな美人だがこのような理由があったのだ。「やっぱり妻に話してはいけませんね」「そうです、いけません」なにか間違っているような気がする。
「彼女とはどうなりました」と聞こうとしたとき携帯電話がなった。「今かもさんと飲んでるんだ」スマホを抑え「嫁さんが来たいと言っているのですが良いですか」「もちろん」「それで彼女とは」奥さんの声が聞こえた「あっいたいた、ずる〜い、あなただけで行くなんて」「えらく早いじゃないか」「私もビーチに行ってみたの、その帰り」と旦那さんのビールを飲んでいる。これでは彼女との後の話は聞けない。
「何を話していらっしゃったの」「いや今までの旅の話やかもさんの武勇伝をね」「かもさんの武勇伝って、女性の話よね、きっと」村上さん、それはずる〜いです。薄曇りの空から明るい陽光が降り注ぎ潮の香りがする風が吹いてくる。幅広い葉の木漏れ日が夫人に肌を緑色に染めている。その妻を夫は優しく見つめている。先ほどの話など少しも感じさせない二人だった。

風俗好きは妻を愛しているらしい
夫婦の数だけ夫婦の形がある。男と女の愛になれば無限だろう。それは色んな出来事を通じて熟成される。離婚が肯定される世の中だけれどお互いがぶつかりあってやっと得られるものもある。昔の人はその喜びを知っていたのではないだろうか。どちらが良いか私にはわからない。
女性から大バッシングを受けそうだが、風俗遊び方をする男の心には妻がしっかりと存在する。妻との性交がノーマルになるのは優しくしたいからだ。男の性は多くの女性と激しい行為を求めるようにできている。妻を愛していないわけではなく、大切に思っているゆえにそれをプロの女性に求める。困ったものだが、風俗で遊ぶ男は必ず妻のもとに戻ってくる。
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