女性の控室のドアを開けた瞬間、800人に近い視線がいっせいに注がれる。それは視線というより吹き付ける熱風だった。生活のかかった1600の瞳が物理的な圧力を持って迫ってくる。部屋は大学の大講義室のように階段状になっていて、青や赤、白など色とりどりのドレスをまとった女性が見おろしてくる。

中国のカラオケクラブはスケールは桁違いだった
彼女たちはどのような気持ちでこの日本人を見ているのだろうか。今夜の稼ぎに繋がるか、指名が取れるかもしれない、このスケベな男は自分の役に立つのか、色んな思いで見つめてくる。男は、ここは花園であり男の天国だ、望めばどの娘も手に入のだと邪悪な想いで見あげる。さぞかし悪代官のような顔だったに違いない。
女子大の教授はいつもこのような視線を感じているのだろうか。視線を受け止める余裕ができるとそんな事を思う。「一生に一度は女子大生に囲まれてJohnny B. Goodeを歌いたかった」ゴーストスィーパー美神の横島君の気持がわかる光景だった。
だが今はそんなことを考えている場合ではない、早く選ばないといけない。膨らんだ邪悪な思いは、見つめられる恥ずかしさに負けてすぐに萎んでしまった。遠くまで見ることができない。結局いちばん近くの女性を指名した。これなら控え室まで来ることはなかった、女性に期待を持たしただけの罪作りな行為だった。
習近平氏が国家主席になる前、中国の風俗産業は爛熟を極めていた。性都・東莞は風俗に従事する女性が30万人もいた。上海も、公安警察に摘発されるという噂はあったが、KTVやサウナなどあらゆる形態の風俗があった。今夜現地の中国人社員に連れてこられたKTVは、地上15階建てのビル全階がカラオケボックスという大きなものだった。ビルは円筒形で各階に6Pチーズのように部屋がある。日本人はあまり来ないが過激な遊びができるらしい。

旅の教訓 指名は適当な所で手を打つことも必要
部屋はすべて同じ作りなので、部屋の番号を覚えていないと戻れなくなる。さすが中国四千年の歴史、KTVも女性の数も桁が違った。部屋に通されると、ママさんの案内で10人くらいの小娘が入ってくる。気に入った 小娘 がいなければ次の10人がやってくる。昨夜は年齢の若い者順から選ぶことになり最初に指名したが、その後から可愛い女性がいっぱいやってきた。これは悔しい、今夜は最後に選ぼうと決めていた。
そうなると今度は目移りがしてなかなか決まらない。仲間の一人が業を煮やして控室へ行こうと言い出した。人はだいたいの所で手を打つのも大切である。女の子が決まればカラオケを歌ったりゲームの時間である。サイコロを転がすチンチロリンの罰ゲーム、飲まされるブランデーやパイチュウの度数は強烈だ。
小娘たちは盛り上げるのが上手くて飲み過ぎてしまう。彼女たちは今夜の相手を見つけないといけない、時間が経つと際どいサービスが増えてくる。最後は人に見せられないドンチャン騒ぎになった。これは面白い、だけど酔っぱらい過ぎてホテルへ帰っても何もできないかもしれない、ひょっとしたらそれが作戦か。
案の定ホテルへ帰ったときはベロベロである。汗をかいたので急いシャワーを浴びる。どんなに酔っていても、もとは(900元)取らなくてはいけない、と頑張ったがどうにもならない。四川省の出身の優しい娘、劉さん(仮名)はいろいろ助けてくれた、だが力尽きてしまった。


旅の教訓 「日本のお金見せて」はチップにしたくなるので要注意
彼女はマグロになった私の腕を撫ぜながらお願いがあると言う。「なに(なんでも聞いちゃう)」「私、日本の五千円札を見たことがない、持ってたら見せて欲しいの」「はい」と手渡すとしげしげとお札を見ている。その姿が可愛いい。「良かったら、あげるよ」「うれしい」とうつむけの背中に抱きついてくる。大きな胸が押しつけられると少し元気になる。五千円札も胸もそれなりの威力があるのだった。

だが後から考えると、彼女が 五千円札を見ていない筈がない。日本人の性格を見極めた高度な作戦だったのだ(この後も似たような経験を何回かした)5千円は1万円より出しやすい、これも作戦だろうかか、それとも1万円札でなかったのは彼女の優しさか。
二人の心が通じ合った、と言うには無理があったがまぁまぁの夜だった。身体はなんとか触れ合った。負け惜しみのような気もするが、彼女の大きな胸は5千円でも納得できるものだった。ただ5千円は約400元でありチップとしては大きな額だ。やっぱりもったいなかったかも。
今の上海の風俗事情
上海は風俗の取り締まりが厳しくなって昔の面影はない。2024年の春節に帰国した上海在住の人の情報では日式KTVなどの店舗型はほぼ壊滅した状態だそうだ。

日本のお札がまた新しくなった。劉さんはまた「新しい5千円札が見たい」と言うのだろうか。そんな遊びができないのが残念である。
 
 



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