台湾 台北 光華観光玉市は少し怖かった

台湾

玉のような肌という言葉がある。そんな肌が手を伸ばせば届くところに横たわっている。白い肌は薄っすらと脂が浮いたように輝いている。この肌をこれから弄ぶのだ、子羊を前にした狼のように目が光る。さぁ今だ。

そのとき「喉が乾きました」と彼女が起き上がる。「あっ、はい」慌ててミネラルウォーターを探して渡す。「ありがとう」笑顔が可愛い。タイミングを逸してしまった。

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古代から中国では玉が愛された

玉の肌の玉は野球やサッカーで使うボールではない、この玉無し野郎と罵られる男の股間にある玉でもない。玉はギョクと呼ばれる宝玉のことである。中国人は古来より半透明の柔らかい玉を愛した。特に珍重されたのが中央アジアの和田(ホータン)で採れる羊脂玉である。その玉は羊の脂肪のように白く妖しい光沢を放つ。

中国の春秋戦国の時代、今はキングダムの時代と言ったほうがわかりやすいかもしれないが、楚の国に下和(べんか)という人がいた。彼は山中で良い玉の原石を見つけ楚の厲王に献上した。ところが王の鑑定士が雑石だと言ったので彼は左足を切る刑を受けた。

厲王没後、今度は武王に献上したが同じで残った右足を切られてしまう。足を切る罰も凄いが再び献上する下和も凄い。次の文王が即位すると卞和は石を抱いて3日3晩泣き続けた。文王がそれを聞き、試しに原石を磨かせてみると素晴らしい名玉だった。文王は先代の不明を詫び、卞和を称えるためにその玉を「和氏の璧(かしのへき)」と名付けた。璧とは玉のことである。

「完璧」を生んだ「和氏の璧」

暫くして「和氏の璧」は再び歴史に登場する。時は同じく春秋戦国時代、和氏の璧は趙の恵文王の手にあった。秦の昭襄王はそれが欲しくてたまらない。秦の領土の15の城と交換にしようと持ちかけた。恵文王はそれは璧を得る陰謀と疑うが、秦はなにしろ強国であり無下にできない。

趙は李牧が有名だが、この頃は藺相如と廉頗が国を支えていた。藺相如は悩んでいる恵文王に自分が秦に行くと言う。秦に着いた藺相如は、昭襄王に面会し本当に城を渡す気があるのかと「怒髪天を衝く」勢いで詰め寄る。相如は命をかけた交渉によって璧を国に戻すことに成功した。史記「廉頗藺相如伝」の名場面である。

昭襄王は、家臣の藺相如を処刑しろと激昂する声を抑え、彼の気骨を誉め趙へ生かして帰す。相如は任務を完うした。この逸話から「完全に物事を成し遂げること」を「完璧」と言うようになった。

相如の時代、名玉は15の城と交換するほどの価値があった。中国人はそれほど玉が好きだったのである。それは今も続いている。台北の故宮博物館にある東坡肉 や白菜、技工を凝らした玉の彫刻を見ると分かる。玉は半透明の軟玉が硬度の高い翡翠(硬玉)や透明な宝石より好まれる。この辺りの美意識が日本人にはよく分からない。

台北の秋葉原に迷い込む

そんな玉好きを証明する場所に迷い込んだことが一度ある。コロナが流行る少し前、MRTの忠孝新生駅の近くのホテルに泊まっていた。他のメンバーは夜遊びをもっぱらとするので、昼の時間がどうしても余ってしまう。仕方なく一人で街を探検していた。

少し歩くと国立台北科技大学の立派な建物が現れる。真面目そうな学生が行き交っていく。若者が勉強に励んでいる時間に、夜に備えて時間潰しをしているおっさん、私の大学生活はどこで間違ったのか。少し恥ずかしい。

暫く歩くと秋葉原に似た雰囲気の街に出た。光華數位新天地という古くからあるモールを中心に、三創生活園區や路面店・地下街エリアがある、電気部品からガジェット、古本まで、専門性の高い店がひしめきあう。ここは秋葉原と同じ電気街だった。秋葉原といえば電気部品とAKB48の劇場とアダルドショップである。

地下街の入口を見つけたので入ってみる。人通りが少ないので不安だったが、思った通りAVのレンタルショップがあった。台湾美人のビデオがたくさんあるはずだ。PornHabに台湾や香港のエロビデオがたくさんある。今はないけれど以前は時代劇や伝説などストーリー性の高い作品があった。ここにはそんなビデオがあるのではないか。期待が高まる。

旅のお勧め 台北の電気街は秋葉原だった

ところが迎えてくれたのは、蒼井そらちゃん、波多野結衣ちゃん、三上悠亜ちゃん、天使もえちゃん、高橋しょう子ちゃん、エトセトラ、エトセトラと日本の女優ばかりである。台湾産や香港産を探したが見つからない。知ったのは日本のサブカルチャーの凄さだった。他国でビデオ店を占領するほどの質と量と人気がある、これを自慢していいのか微妙である。

日本の性文化は、アメノウズメノミコトが天の岩戸の前で踊って以来、江戸時代の浮世絵を経て今もアジア諸国を圧倒的している。幕末に日本にきた欧米人が驚いたことは、清潔、子供を可愛がる、性に開放的なことだった。仏教も土着の文化と融合しておおらかだった。真言密教立川流は弾圧されたがそれ以外は性に寛容だった。

電気と大人のおもちゃは親和性があるようでここにもアダルトグッズ店があるらしい。日本のメディアは、日本のアンダーグラウンドカルチャーの国際的な影響力を報道しない。まぁTVでは難しいだろうが。中国とアフリカの巨大なインフォーマル経済も無視する。世界には知らない経済や文化が多くある。ここは日本のサブカルチャーを誇らしく感じる。興味のある人は足を運ばれると良いだろう。

旅のお勧め 光華観光玉市に行ってみよう

ビデオ店を出て下町の雰囲気のなかを、またあてもなく歩くと光華観光玉市という看板が出てきた。建物のなかは薄暗く低い屋根の下に幾筋もの通路がある。その両側に小さな店が並び、店主が店の前や奥に座っている。お客は地元の人らしく観光客は見当たらない。

店にはケースに入った根付のような小さな玉や、色とりどりの数珠、動物の彫刻や装飾用のペンダント、四角い印鑑などがところ狭しと並んでいる。玉は薄暗い照明に照らされて白や薄緑の柔らかい光を放っている。京都の天神さんや弘法さんのような骨董市なのか。

これは良いねと写真を撮ろうとしたら、近くの店主に睨らまれてしまった。スキンヘッド、少しくたびれた白いシャツに半ズボン、サンダル姿のおっさんは迫力がある。周りを見ると、短髪の尼さんみたいなおばちゃんや仙人のようなヒゲを生やしたおっさんなど一癖も二癖もありそうな店主がたくさんいる。日本の古物商と同じような癖の強いオーラを放っている。

旅のお勧め 玉市に掘り出しものがあるかもしれない

私は完全に浮いていた。みんなが見ているような気がした。日本人がこんなところで何をしているんだ、物珍しそうな視線は気になったが玉を見続けた。玉はなにも言わないが、古い玉には曰く憑きのものがあるかもしれない。非合法に入手されたものもあるに違いない。ひょっとしてここは危ない場所ではないか。だんだん怖くなってきた。

そうするとと周りの人たちが怪しく見えてくる。こんな野郎は身ぐるみ剥いでやれ、クズの商品を売りつけてやれ、妄想が膨らみ生来のビビリが頭をもたげてくる。これはだめだ、さっさと撤収しなければいけない。早足で市場から出ると強い日差しが心地よい。

売られていた玉の数は多かった。商品の値段は良く分からなったが、客の雰囲気ややり取りを見ているとそれほど高価なものを売買しているようではなかった。何の知識もなく迷い込んだのでビビってしまったけれど、もっとじっくり見たら掘り出し物が見つかったかもしれない。

中国人はどうして柔らかい玉が好きなのだろう。その技術をもってすれば宝石や翡翠など硬玉の加工もできたはずだ。翡翠が玉の仲間に入ったのは清の時代だから最近である。中国人の本命はあくまでも半透明の軟玉が本命なのである。 

林森北路の彼女の肌は白く妖しく輝く

「光華観光玉市って知ってる」タイミングを逸したので関係のないことを唐突に聞いてしまう。猫が顔を洗うのと同じ代償行為である。「石を売ってるところだね」「危ないところなの」「観光客は少ないけど怖くないよ」「そうなんだ」と頷きながら並べられた玉を思い出す。どうして軟玉が好まれるのだろう。

彼女が上半身を起こして見つめてくる。若い娘は艶っぽい。ペットボトルを持つ二の腕の脇から乳房の膨らみが見える、全身がきめ細やかな光沢に包まれているようだ。林志玲や林襄、田馥甄もこんな肌をしているのだろうか。この白さ、この光沢、中国人が玉を愛でる気持ちが分かったような気がする。

彼女がサイドテーブルにボトルを置こうと背を向ける。彼女は林森北路のKTVで出会ってやってきた。背中はホータン産出の羊脂玉である。ピンクレディの曲が頭に響く。男は狼なのよ・・・SOS、SOS。「いいかな」「うん」彼女が優しく頷く。やはり狼になるのは難しい。

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