「I can go with you」の言葉はほんとうだった。ショートのペイバーを払ってホテルに゙帰りプロイちゃんの甘い匂いを楽しんでいる。彼女は身体だけでなく鼻や口からも良い香りがする。ミントの香りが漂う唇は直ぐ傍にある。私の経験は、この匂いは女性が興奮したときに出す匂いだと告げている。彼女はほんとうに興奮しているのではないか。ひょっとして私に惚れたのかも。

旅の教訓 マリン・プラザ・パトンの海鮮はお酒にぴったり
プーケットタウンを往復するテンソウのドライブを終えてホテルへ戻り休息してから、パトンビーチから少し離れた屋台村マリン・プラザ・パトンへ夕食に出かけた。ここは海鮮が良いらしい。タクシーで行こうかと考えたがテンソウで長時間座っていたので歩こうとなった。ところが思いの外遠くて30分近く歩く羽目になった。ここはタクシーを利用したほうが良いかもしれない。
マーケットは大きくて色んな屋台がある。噂通りで海鮮の屋台が多い。全部ではないがだいたいの処を見てから中ほどにあるテーブル席に座った。この席は飲み物を買うと使える。さっそくビール、120バーツを頼んから、それぞれに分かれて屋台につまみを買いに行く。新鮮な魚や貝を並べた屋台は注文するとその場で焼いてくれる、これは美味そうだ。
ここでアジみたいな魚とイカのゲソとムール貝を選んで焼いてもらう。一匹が100バーツ(400円)くらい。焼き鳥1本20バーツ、バーベキュー50バーツと安いので、みんなで色々買っていたらテーブルがあっという間に磯丸水産状態になってしまった。「ここは酒の肴の天国ですね」「醤油が欲しいところだね」「スタミナをつけるためにもうちょっと肉系いきますか」などと言っているうちに酔っ払ってきた。気づけばけっこう遅い時間になっている。トムヤムクンとパッタイで締めて出陣である。気合が入る。

旅の教訓 目指すのはシードラゴン通り
バングラ通りは色んな国の人たちでいっぱいで、若いお嬢さんたちも歩いている。人混みを歩くと大きなプラカードを持ったおばちゃんやおっさんが声をかけてくる。店と飲み物のメニューが多いがセックスショーもあった。日本で廃れたストリップ劇場の本番ショーのようなものか、興味を惹かれるが他人のデカいのを見て自信をなくす恐れがあるので止めておいた。
「どこへ行きますか」「ゴーゴーバーのほうがバービアより可愛い子がいるそうですよ」ゴーゴーバーはバングラ通りのなかのシードラゴン通りに固まっている。クレージーガール、ハーレム、スージウォン、ブレークスルーなどの名前がある。どの店もあまり大きくなく、大きな音楽、安物の香水の臭い、男の体臭が入り混じった空気の中で女の子が水着や際どい衣装で踊っている。
何人かの女の子に声をかけドリンクを奢り、次の店に行く。そうして何軒か回るうちに昨夜と違って簡単に話が纏まった。私は昨夜と同じように残された。というより「I can go with you」を信じて残ったのである。

何度も通えば成功率は上がる
みんなと別れてタイガーなんとかにつくと昨夜の彼女が踊っていた。ビールを飲みながら見ていたら気づいたようでステージから降りてやってくる。「Hi」「Hi, do you remember me?」「Of course」「飲み物いいですか」「Yes」となにか妙な会話になる。「私はプロイ、あなたは」「かもちゃん」
自己紹介が終わると彼女がゲームをやろう、ゲームをして負けたら奢るのがここの流儀だよと教えてくれる。この立体五目並べが難しい、殆ど負ける、負けるとプロイちゃんが笑う。これはこれで楽しいのだが求めるものはこれではない。頭を使うと酔いが回る。彼女も酔ってきたようだ。今夜もこのままで終わりかと諦めかけたとき私の手の上にそっと手を重ねて「I can go with you」と囁く。満たされるなぁ。

プロイちゃんは良い匂い
再びの一時が終わって暫くの沈黙のあと「プロイちゃんはいい匂いがするね」「バンコクは暑いから汗をかく、パフュームがいる」「いい匂いの香水だね」「高いのは買えないけど」と上目つかいに見つめてくる。これは危険な雰囲気だ。「ショピングセンターを案内できるよ」「今度買いに行こうか」どうしましょう。
でも香水は鼻につけない。「プロイちゃんは、ヤードムを使ってる」「うん使うよ、タイの女の子はみんな使う、おじさんも使う」「私はペパーミントが好き」そうか、そうだったのかヤードムはメントールばかりだと思い込んでいたがペパーミントもあったのだ。
ヤードムというのは、タイの人が良く普通に使う嗅ぎ薬のことである。タイ語で、ヤーは薬ドムは嗅ぐことだ、二つ合わせてヤードムだ〜となる。見た目は日本のリップクリームやステック糊にそっくりだ。そのスティックを鼻に突っ込んで使う。以前はタクシーの運転手が鼻の片方の穴に刺しているのをよく見た。乗り込むとスティックを鼻に刺さした運転手が振り返る、びっくりするけれど何かおかしい。
ヤードムのことは運転手の一人に教えてもらった。メントールの香りが頭をすっきりさせ眠気を醒ますのに効くらしい。昔の仁丹か今のフリスクである。その運転手は、匂いを嗅げと容器をホイっと差し出してくれた。脱ぎたての女性の下着ならありがたいが、おっさんの鼻の穴から抜きたてのヤードムでは、慌てて遠慮したがメントールの強い匂いがした。

旅の教訓 ヤードムはタイのお土産にふさわしい
今は種類が増えて、メントールだけでなく、ペパーミントやタイガーバームの匂いのもあるらしい。メンソール、ペパーミント、樟脳、ボルネオール(ボルネオショウノウ)ユーカリ、オレンジピール、アニスなどのアロマオイルなどの漢方の植物由来が成分で身体に悪さをするものは入っていない。
値段も一本20バーツ(90円)くらいと安く容器も可愛い、と思いながらお土産にする発想がなかった。飲み屋のお姉さんにぴったりなのに気づかなかった。自分がくやしい。ただ「L−デソキシ エフェドリン」という成分が入ったヤードムは日本で禁止されているので要注意である。
ヤードムは、台湾のビンロウと同じく常夏の国に暮らす人々の生活の知恵が生み出した産物なのだろう。街ではおっちゃんだけでなく若い女の子もこれを鼻に刺してすっている。それがけっこう可愛いのである。プロイちゃんも鼻にさしているんだ。それもペパーミントのやつを。

彼女の香りは
何かおかしくなってきた。彼女はほんとうに興奮していたかもしれないが、鼻から漂う良い匂いヤードムのものだった。それなのにモテているかもしれないと思っていた自分がおかしい。「そんなことないよね」独り言がでる。「どうしたの」彼女が身体を寄せてくる。「なんでもない」「明日どうする」どうしよう、香水と一緒にヤードムを買い込もうか。「欲しいパフュームがあるの」今度は胸がぐいぐい押し付けられる。
どうしよう。プロイちゃんは本当に興奮してなくても十分に良い娘だった。バービアは失敗もあるがこれがあるから止められない。だがどうしよう。あたまをすっきりさせるヤードムが欲しい。
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