スワンソングは米国のホラー作家ロバート・マキャモンの名作である。舞台は核戦争によって文明が崩壊した近未来のアメリカ、世界は核の冬によって薄闇に包まれる。悪役プロレスラーと共に生き延びた少女スワンは植物を蘇らす能力を持っていた。

五反田のスワンソング
可憐なスワンは悪と戦いながら灰色の世界に植物を蘇らせていく。核の冬が終わり悪が退けられると、スワンは恋人と共に大地を蘇らす旅を始める。スワンと彼女を助ける人たちが織りなす壮大な叙事詩である。
この物語ほどのスケールはないが、日々同じような奇跡が行われている世界がある。しなだれたアレを甦らして立たせる能力を持った女性がいる。彼女たちの手が触れると、小さくうな垂れたものがみるみる大きくなり艶やかで固く張り詰める。この能力者は若い娘から熟女まで幅広く存在する。
そんな彼女たちが語るには、世の中にはスワンチ〇〇と言われるものが存在するらしい。いったいどのような物なのか、それは白鳥の首のように下に曲がっているイチモツだそうだ。ある女性は水道の蛇口のようだと言う。男の物はたいてい右か左に曲がっているそうだが下にはいかない、そんなのだったら入らないと思うのだが、私などよりはるかに多くの現品を見ているのだから信じるしかない。
ピロートークで語られる話題の一つである。ピロートークはお楽しみの前や激しく動いた後に楽しむ会話だ。男と女は身体を交わせると心が格段に近くなる。だからピロートークは本音の話になる。女性が柔らかい肌を寄せながら語る男達の生態は実に興味深い。男が嬢の前で見せる姿は社会の姿と随分異なる。簡単にスケベと切ってすてられるオヤジ達は毎日誰かのために一生懸命働いている。そのわずかなご褒美がデリヘルである。女性と過ごす短い時間、男が求める夢はささやかで切ない。
東京に暮らしたとき五反田の姫君たちのお世話になった。今五反田はビジネス街だが以前の駅周辺は大きな歓楽街だった。その歴史から風俗はデリヘリを中心にしっかり生き残っている。東京は人口が多いので店の数も多く女性のレベルも高い。そのなかの熟女デリヘリにハマった時期があった。
その店はJR五反田の改札口で待ち合わせることができた。駅には同じ目的のおっさんがいつも何人かいる。改札口から乗客が一斉に出てくると急にそわそわしだすので直ぐわかる。自分もだけど。いい女が他の男のもとに駆け寄るとなんだか悔しい。
そんなことを思っているうちに自分の嬢が登場する。腕を組んで歩く白昼の道は不倫の雰囲気である。気分が盛り上がり会話が始まる。熟女たちの話はおもしろい。おばちゃんたちが話好きなのは職場を問わない。彼女たちから沢山の話を聞かせてもらった。

熟女たちの会話と本気
「かもちゃんは失礼だよ、彼女にフラれそうになったときばかりやって来て。そんな女の気持ちなんてわからないわよ。たまには普通にきてよね、そうでないとさせてあげないよ」おかんむりである。全く彼女のいう通りであるが、しっかり追加料金はとるよね。
熟女デリの楽しみはもう一つある。「三十させ頃四十のし頃」という格言がある。この年頃の女性は性欲が強いことを示したものだ。彼女たちは格言のとおりときどき本気になる。「もっと奥まで」とか「もう一回良いよ」とか、うれしいけれど厳しいときもある。
そんな彼女を仮に恵さんとしておこう。今回はその恵さんに色んな女性から聞いた話を紹介してもらおう。ちなみに恵さんは、色白黒髪、小柄な人形のような熟女である。彼女も気分が良いと本気になる。

男がデリヘルに求める夢はかなしいぞ
私が風俗の世界に入って一番驚いたのは男のアレの多様性だったわ。大きいのから小さいの、右曲がりや左曲がり、そしてスワンチ〇〇、色々あってもう吃驚。それに自慢する人が結構いること。俺のは立派だろう、こんなのに出会った君は幸せだ、って本気でいうのよ。呆れるわ。
僕のは小さいと卑屈になる男も多い。そんなことないよと言ってあげると喜ぶのが可愛い。自分が一番分かっているのにね。私達にとって大きいのはあまり値打ちはないのよ。早く終わってくれるのが最高。チ〇〇自慢くらいは可愛いもので、わけのわからないお客さんも多いわ。
女の下着をつけて来る人って何がしたいのかしら。この間のお客さん、立派な会社の社員らしく今どき珍しいベストまで着てるのよ。自分で服を脱ぐ人は多いけど、この人、脱がせて欲しそうだったから手伝ってあげたら、出てきたのが、ブラジャー、ショーツ、ガーターベルト。高級ブランドでばっちり決めてるの、自分のが恥ずかしくなっちゃったわ。この人、嬢が驚いたり、軽蔑した目で見ると興奮するのですって。わかんない。
もっとわかんないのが、何もしないで帰る人。老人かって、そうじゃないのよ。若い人にもけっこういるの。部屋に入って暫く話して寝てしまう人、昨日徹夜だったんだーってシャワーを浴びて気持ち良さそうにしてるな、って思ったらもう鼾をかいてる。初めて当たったときはどうしようと思ったけど、今は時間が来るまで寝かしてあげるの。どうして起こしてくれなかったって怒る人もいないし。楽だけど申し訳ない気はするわね。寝顔を見ていると男の人も大変なんだなぁって思うよ。

殴られる男
そんななかでもとっても可哀想なお客さんが一人いたなぁ。30台後半のサラリーマンなんだけど、毎月第3週目に来るの。ロングできて前半は普通にして後は腕枕で話すの。それが人生で唯一の楽しみなんだって。そんなの奥さんにしてもらったら良いのにって言ったら、奥さんに殴られるというの。
家の門限に遅れると、奥さんが玄関に立っててグーで殴られるんだって。それ以外でも逆らうとすぐ殴られる、だから勤務時間に抜け出すのが精一杯、月一回が唯一の楽しみなんだって、どう思うかもちゃん。そんな女、殴り返してやればいいのに。
「そういわれても夫婦の形は色々だからねぇ。イタリアなんか交通事故の半分は運転中に女が男を殴るのが原因らしい。ひょっとしたらイタリア人かもしれないね」と答えたが、本当にそんな狂暴な女がいるのだろうか。たぶんいるんだろうな。同情を誘うその男の作戦かもしれないけれど。
そのお客さん、妻と別れるから結婚して欲しいというのよ。年上のおばちゃんによ。でも、女に殴られ放しの男って、さすがに断ったけど、今どうしてるかしら。でも休んでいるときの顔、幸せそうだったなぁ。

旅の教訓 日本のデリヘルは癒やしの宝庫である
今はあまり知られていないが、サドの研究家として有名な渋沢龍彦という学者がいる。氏に言わせると人の性の倒錯は、サディズム、マゾヒズム、フェチズム、スコプトフィリア(覗見症)、エジキビニショズム(露出症)、今流行りのLGBt、オナニズム、ペドフィリアなど限りないそうだ。その多様性は圧倒的に男に多い。男に変態と言われる人が多いのはそのためだろう。
大抵の男は強いか弱いかを別にして倒錯した性欲を持っている。日常生活はそれを隠している、抑圧していると言っても良い。家族や妻にしられたくないし露出などやったらすぐに生活基盤を失ってしまう。そのため常にストレスを抱えることになる。そのストレスを解消できる場所が風俗なのである。彼らの夢は、女性の下着を着けた姿を見てもらうことだったり、女性に抱かれての熟睡だったり、怖い妻からの逃避、などささやかで少し悲しい。
そんなことをするのは別にデリヘルでなくても良いだろう。たしかにもっともな意見だが女性の素肌と触れ合っているのが重要なのだ。作家今野敏の小説「陰陽師」にこんなくだりがある。世界は陰陽の理でできているいる。男は陽で女は陰である。人は太陽から陽気を取りいれるが、男は陽でだから陽どうしで反発する。だから陰である女を通して陽気を取り入れないといけない。男は女から陽の気をもらって元気になる、それができるのは女だけなのだ。

「ねぇ、かもちゃんどうするの。いつまで愚痴いってるつもり」恵ちゃんである。「追加は5000円だよ、どうする」「もちろん」「時間残ってないよ、急ごう」と小さなものに手を伸ばしてくる。スワンの手である。男には夢と癒やしが必要だ、日本のデリヘリにはそれがある。
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