「ねぇ、明日もお店に来る?」シーツを胸に引き上げながら彼女が聞いてくる。この言葉に男は弱い。ほんとうは別の店に行きたいのだが、このタイミングで言われるとどうも断りにくい。「行こうかな」と答えてしまった。

嫦娥と后羿
男はどうしてこうなんだろう。女にねだられると悪い気はしない、それどころか嬉しい。男は女のおねだりを叶えて愛されようとする。男の性は太古から変わらない。中国の神話にそんな話がある。太古の中国、あるところに嫦娥という絶世の美女がいた。彼女の夫は后羿(こうげい)という弓の名人である。能力や金のある男がモテるのは古今東西同じである。
仲睦まじく暮らす二人だったが、あるとき空の太陽が十個に増えてしまう。太陽を増やすとはさすがに中国のスケールは大きい。それも十個である、海は枯れ太地は焼けて住民はおおいに苦しんだ。それを見た嫦娥は后羿に言う。
「もう暑くってたまらない、あなた何とかしてちょうだい」美人がきついのは時代や国を問わない。
「何とかすると言っても」と后羿は気乗り薄だ。
「もううざったいたらありゃしない。太陽を射落としたらいいのよ、あなた弓の名人でしょ」

「落とすと言っても、何個落とせばいいのかな」
「全部やっちゃってよ、暑いし汗はかくしお化粧は崩れるし、この際だから全部落とせばいいのよ」
「そんな・・・全部落としたら昼がなくなってしまわないか」
「いいのよ、月があるでしょ、誰も困らないわよ」
「それに夜ばかりだったら、あなたぁ・・・もっと頑張れるでしょ」と声が甘くなる。
会話は想像だが、夫婦の間は昔から同じようなものだからあながち間違っていないだろう。
さて后羿 、最後の言葉は気になったが、みんなが困っているからやってみるかと崑崙山に登った。弓を取り九つの太陽を射落としたところで考えた。やっぱり全てを落とすのはまずいのじゃないか。
「夜ばかりだったら」の 嫦娥の流し目も気にかかる。そこで残った一個の太陽に「真面目やれよ」と言って帰った。太陽は一つになり毎日決った時刻に昇るようになったので住民は大いに喜んだ。西王母もそれを見て喜び、后羿に褒美として不老不死の薬を与えた。

嫦娥奔月という伝説
后羿は、西王母に褒められて意気揚々と家路に着いた。「西王母様も喜んでくださった。嫦娥の言うことを聞いていたら間違いない。きっと喜んでくれるだろう」と規格外れの英雄はサラリーマンのようなことを考えていた。
ところが、家に着いて「帰ったよ」と明るく声をかけても嫦娥は迎えに出てこない。体調でも悪いのかといぶかっていると。
「まだ一個残っているわよ、どうして私の言う通りにしてくれないの、愛してないの」家の奥からなじる声が聞こえる。困った后羿は言い訳を始めた。
「西王母様が褒めてくださったのだよ」
「西王母様が褒めてくださったの」と戸の陰から顔を半分出す、少し機嫌がなおっているようだ。
「おまえのアイデアだよと言ったら、おまえのことも褒めておられたよ」もちろん西王母は褒めてないし、そもそも后羿は嫦娥のアイディアと言っていない。
「まぁ私のことも、そんなこと言わなくていいのに」また少し機嫌がよくなる。
「驚くなよ、ご褒美に不老不死の薬を貰ったんだ」
「凄いわ、でも、あなたがもう飲んでしまったのでしょ」声の調子がまた下がったのは気のせいだろう。
「いや、飲むとおまえと別れがくるから飲んでないよ」后羿は心から言う。男はいつも純真である。
「どうするの」
「おまえに持っていて欲しいのだよ」
「あぁ、あなた愛してる」と丸くおさまったかどうか、あらすじ以外はフィクションだが、嫦娥奔月という伝説の前半である。(太陽を落とすように命じたのは西王母の説もあります)

我慢できない女と思い続ける男
イブは食べてはいけない林檎を食べ、パンドーラーは開けてはいけない箱を開けてしまう。女の好奇心は誰も止められない。嫦娥も夫の居ない間に薬を飲んでしまう。こういう林檎や箱には大抵良くない副反応が付き物である、玉手箱もそうだった。
后羿が貰った薬は、飲むと不老不死になれるが月に住まないといけないものだった。トレードオフは大きく嫦娥は月に寂しく暮らすことになってしまう。后羿は大いに悲しみ、空を見上げるとその夜の月はひときわ明るく輝き嫦娥の影が見えるようだった。
后羿は彼女の好きだった庭にテーブルを置き、月で自分を思っているはずの彼女を眺めた。これが中秋節の起源である。
月は太陽の光を反射して輝いている、太陽がなければ月は光らない。后羿が太陽をすべて射落としていたら、嫦娥のいう「誰も困らないわよ」ではすまなかった。現代人は后羿の良識に感謝しなくてはいけない。后羿は嫦娥の願いで太陽を射落とし、愛のために不老不死の薬を渡した、なのに嫦娥は后羿のもとから去って行く。男が一生懸命尽くしても女は自分の感情にのみ従って行動する、男と女はそんな関係なのだ。
后羿は知らないが月にはもう一人の男が住んでいる。嫦娥がその男が二人きりでいると知ったら、后羿は月を射落としたかもしれない。月はまだ空にあるのでそれを知らないようだ。

男は女性の誘いを断れない
月は、地球から384,000キロメートル離れた直径3,474キロメートルの岩の塊である。米国と中国の国旗と探査機はあるかもしれないが嫦娥もウサギもいない。地球とは異なり炭素と窒素が少ない。月はそのようなものだと誰もが知っている。それでも、人は月に嫦娥やうさぎの姿を見て、かぐや姫が帰った月の世界に思いをはせる。単なる岩の塊とは思わない。
女性もそうだ。生物としては男も女も機能はほぼ同じなのに男はいつも女に幻想を見る。女は蠱惑的なベールを纏い無意識に男を誘い、男はその女のために色んなものを捧げる、お金、宝石、美味しい食事、暖かい寝台、ねだられる物をできるだけ与えようとする。悲しいかな男はそうできている。
それをよく知っているのが風俗の女性たちだ。柔らかい身体と甘い声で通りを歩く男たちを誘う、席に着けば暖かい肌を寄せてくる、そうなると男はもう止まらない。風俗で遊ぶときは(財布の中身を計算するのは必要だが)無駄な抵抗はやめるのが良い。

中国の性産業は復活するはず
かつて広州の隣、東莞でそんな光景が夜な夜な繰り広げられた。ホテルにサウナ(ソープ)が併設され街はピンク床屋が並び嬌声が響く、夜に働く女性が30万人もいる性都だった。習近平政権の取締りによって今はその面影はないが、中国の性の潜在力は巨大である。中国女性の性欲は強くて不倫が盛んに行われている。
2015年の調査は、既婚男性の不倫率は13.6%と世界平均13.2%を少し上回るが、既婚女性の不倫率は4.2%と世界平均0.8%の約5倍にもなる。中国人女性の本性はスケベなのである。日本で報道されないが、浮気やスキャンダルが頻発しており、中国の役人や金持ちの不倫チャットが毎日晒される。中国社会に隠されたエロパワーは物凄い。そのパワーがある限り性都は復活するはずだ。
今は政治的な危険があるので安易な行動は慎しみその日を待つ、それが賢明な男というものだ。

后羿が月を眺めて嫦娥を思うように、中国各地であった女性を思い出すときがある。中国の歴史や分化、中国美人はやっぱり凄いのである。復活の日を望むばかりだ。
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