「スワンソング」は1994年に出版されたロバート・マキャモンの核戦争後の世界を描いたモダンホラーである。この小説がワーキングデッドシリーズの監督グレッグ・ニコテロによってドラマ化されるらしい。2024年に制作中と発表された。事実ならたいへん楽しみである。
ただ、制作にあたってはポリコレを気にせずスワンを金髪の美少女として描いて欲しい。彼女が核爆発が作り出した奇跡のリングを戴くと、リングから溢れだした光が金色の髪を流れ透明な炎が全身を覆う。その描写は原作通りの主人公がふさわしい。トランプ大統領によってポリコレが後退するのを期待したい。
マキャモンの小説 スワンソングがドラマ化されるらしい
作者ローバト・マキャモンは、スティーヴン・キング、ディーン・R・クーンツと並ぶ米国モダン・ホラー界の巨匠である。マキャモンの小説は、スティーヴン・キングの作品がなんとも言えない後味の悪さを残すのと対照的にハッピーエンドで終わる。それがすばらしい。
スワンソングの舞台は近未来のアメリカである。物語は悪の化身である深紅の眼の男が核戦争に生き残った人々に人肉を食べろとそそのかすところから始まる。その後小説はアメリカの大統領が核攻撃を決断するところまで逆のぼる。大統領は全ての悪を流し去ろうと核のボタンが押す。
そのとき9歳のスワンは母と一緒に中部のガソリンスタンドにいた。近くの基地から次々とミサイルが打ち上げられる、黒人の悪役レスラージョシュも同じ場所でそれを見ていた。ミサイルが飛び去り世界は一瞬の沈黙に包まれる、そしてソ連の核弾頭が飛来し黙示録の世界が出現した。

黙示録のアメリカ
スワンとジョシュはガソリンスタンドの地下室でかろうじて生き残る。薄暗い部屋のスワンが横たわった地面には緑が芽吹いていた。スワンは植物を蘇らす能力を持っていたのだ。ジョシュは母を亡くしたスワンを守ると決心して旅に出る。二人が地下室から出ると、地上は核の冬によって日差しのない薄暮の世界になっていた。
その世界で、かろうじて生き残った人々はわずかな食料に頼りながら社会を復興させようとしていた。深紅の目の男は人類を更に追い詰めようと救世主スワンを探し始める。
ニューヨークに落ちた核爆弾はティファニー本店を吹き飛ばし、熱と爆風はガラスを溶かし色々な宝石を封じ込めた王冠のようなリングを作った。それを近くにいたバックレディのシスターが拾う。彼女は子供を失い精神に異常をきたしていたが、リングが見せるビジョンによってりそれをスワンに届けることが使命だと知る。シスターは仲間とともにリングに導かれ旅にでる。
悪の集団も誕生する。ベトナム帰還兵のマクリン大佐はソ連から国を守ろうと軍団を結成するがやがて暴力で人々を支配する存在になる。気弱な少年ローランドも大佐に影響され悪に染まっていく。軍団は平和に暮らす人たちを攻撃し略奪と殺戮を繰り返す。やがて地球を破壊する最終システム、タロンの探索を始めた。
スワンとジョシュと馬のミュールは奇跡を起こしながら旅を続ける。亡くなった子供が握りしめていた種からトウモロコシを育てたり、もう枯れたと思われていたりんごの樹を蘇らせる。雪夜に白い花を咲かすりんごの花、奇跡の描写が美しい。

現代版 聖杯物語
リングはシスターにりんごの花のビジョンを見せて導く。シスターや仲間たち、医者やカウボーイの前に事故、突然変異した野生動物、暴力組織の襲撃が立ちふさがる。その苦難に立ち向かい、シスターの仲間は味方を助けるために次々と命を落とす。人間だけでなく馬のミュールや犬のキラーも花道を与えられ去っていく。それでも旅を続ける。シスターはスワンに会えるのか。
三つのグループは人間の理解を越えた力に導かれて旅を続ける。旅のエピーソードの一つ一つが短編になるほど面白い。物語は7年の時が流れ三つの集団が出会ったときに大団円を迎える。
訳者は、命を芽生えさせる能力を持つ少女スワンを主人公にした物語を「愛と宥し」の現代版聖杯物語という。前半は現実的な核戦争後の世界や文明が崩壊した姿が描かれるが、後半はスワンとリングが起こす奇跡を主題にしたファンタジーの雰囲気が強くなる。

ヨブの仮面
ヨブの仮面という病気がある。生き残った人の顔の全てや一部が硬い皮で覆われる奇妙な病気である。スワンもこれに罹り顔全体かろうじて息ができる状態になって寝込んでしまう。そのときシスターが現われて持って来たリングをスワンに渡す。
リングは眩く輝を放ち透明な炎でスワンの全身を燃え上がらす。ジョシュやシスターが恐怖を覚えたとき炎はヨブの仮面に吸い込まれる。そして仮面にヒビが入り割れだして黄金に輝くスワンの髪が現れた。ヨブの仮面はその人の内面に合わして顔を作りかえるだった。ヨブの仮面が剥がれたスワンは輝くような美少女だった。
スワンはシスターとジョシュと再び旅を続けるがマクリン大佐に捕まってしまう。マクロン大佐は最終兵器タロンを発見し起動させようする。スワン達の最後の戦いが始まる。地球は滅亡するのか。スワンたちは勝利を納めタロンは米国映画によくある間一髪で止められる。
だがシスターは戦いで傷つく。スワン達が地上に出ると、おりしも核の冬が終わり太陽が雲の切れ間から現れる。悪の軍団は太陽の光から逃げ惑って消えていく。重傷を負ったシスターはスワンの腕のなかで待ち望んだ太陽の陽を浴びながら息を引き取るのだった。

核戦争により荒廃し暴力に支配された世界、その世界を蘇らせる救世主スワン、人知を超えた力がスワンと仲間を助けるというファンタジー的な要素と描かれる暴力の激しさが独自の面白さを生み出している。
真紅の目を持った男という「やつらは乾いている」の吸血鬼のような悪も登場する。更に彼らを操る更なる悪が存在するが、超越者である善によって最後に打ち負かされる。マキャモンはこのカタルシスがあるので救われる。破滅とファンタジーを融合させた大作、文句なく面白い。
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