「スワンソング」は1994年に出版されたロバート・マキャモンのモダンホラーである。舞台は核戦争後のアメリカ、人類が核の冬から復活する壮大な叙事詩だ。この小説がワーキングデッドシリーズの監督グレッグ・ニコテロによってドラマ化されるらしい。本当ならたいへん楽しみだ。
物語の重要なアイテムに核爆発が作りだした奇跡のリングがある。ニューヨークのティファニーを襲った爆風と熱は、ショーウィンドウのガラスを溶かし宝石を閉じ込めた王冠のようなリングを作った。主人公のスワンがその王冠を頭に戴くと、そこから光が溢れだし彼女の金髪を包む。光は透明な炎になって彼女の全身を覆って燃え上がる。
ここで監督に望むことがある。このシーンを原作通りに描くことである。スワンは金髪の白人の美少女がふさわしい。トランプ大統領によってポリコレが後退するのを期待したい。
マキャモンの小説 スワンソングがドラマ化されるらしい
ローバト・マキャモンは、スティーヴン・キング、ディーン・R・クーンツと並ぶ米国モダン・ホラー界の巨匠である。マキャモンの小説は、スティーヴン・キングのなんとも言えない後味の悪さと対照的にハッピーエンドで終わる。それがすばらしい。別の大作「やつらは乾いている」もスカッとした結末を迎えた。
スワンソングの舞台は近未来のアメリカである。物語は悪の化身である深紅の眼の男が核戦争に生き残った人々に人肉を食べろとそそのかすところから始まる。その数日前、アメリカの大統領は全ての悪を流し去ろうと核のボタンを押した。
そのとき9歳のスワンは母と共に中部のガソリンスタンドにいた。彼女は近くの米軍基地からミサイルが次々と打ち上げられる光景を見ていた。黒人の悪役レスラー、ジョシュもそこに居合わせた。すべてのミサイルが飛び去ると世界は沈黙に包まれる。やがてソ連の核弾頭が飛来すると黙示録の世界が出現した。

黙示録のアメリカ
スワンとジョシュはガソリンスタンドの地下室で生き残った。数日後に二人が地下室から出ると、地上は核の冬が訪れ日差しのない薄暮の世界になっていた。スワンが寝ていた地下室の地面に緑が芽吹いていた。彼女は植物を蘇らす能力を持っていたのだ。
深紅の目の男は救世主スワンの存在に気づき彼女を探し始めた。ジョシュは母を亡くしたスワンを守ることを決心する。一方、ニューヨークに子供を失い精神に異常をきたしてバックレディのシスターがいた。シスターは爆風が作った奇跡のリングを拾う。リングは、シスターにスワンのビジョンを見せる。正気を取り戻した彼女はリングを届ける旅にでた。
別の場所では、ベトナム帰還兵のマクリン大佐がソ連から国を守るために軍団を結成していた。軍団は暴力で人々を支配する存在に変質していた。気弱な少年ローランドはマクリン大佐に憧れて軍団に入団する。軍団は略奪と殺戮を繰り返しながら、地球を破壊するシステム、タロンを探す。

現代版 聖杯物語
スワンはジョシュと共に旅を続けながら奇跡を起こして行く。死んだ子供が握りしめていた種からトウモロコシを育てる。枯れたりんごの樹を蘇らせる。吹雪の夜、老木が白い花を咲かせる光景が美しい。リングに導かれるシスターと仲間たちの前に、突然変異した野生動物や暴力組織が立ちふさがる。
仲間は、彼女を守り命を落としていく。馬のミュールや犬のキラーも活躍する。彼女を襲った盗賊のなかに彼女を助ける少年がいた。彼は彼女の恋人なる。人智を超えた存在は三つのグループを一箇所に集め物語は大団円を迎える。エピーソードの一つ一つが短編になるほど面白い。だが長い。
物語の前半は核戦争によって文明が崩壊し、暴力が支配する荒廃した世界が描かれる。後半は、植物を芽生える能力を救世主スワンとリングを巡るファンタジーになる。「愛と宥し」の現代版聖杯物語といえるだろう。

ヨブの仮面
荒廃した社会にヨブの仮面と言われる奇妙な病気が流行する。病気に罹る顔の一部が硬い皮で覆われてしまう。スワンは顔全体が皮に覆われかろうじて息ができる状態になる。苦しむ彼女のもとへシスターが現われリングを渡した。リングは脈動し強い光を放ちだす。
リングから溢れた光は透明な炎になりスワンの身体を覆った。彼女の全身が燃えあがる。ジョシュやシスターが恐怖を覚えたとき炎は仮面に吸い込まれた。仮面は音をたててヒビが入り割れ、その下から黄金に輝く髪が現れる。ヨブの仮面は本人の心に合わせて顔を作り変えるのだった。スワンは輝くような美少女だった。
スワンはシスターやジョシュと旅を続ける。マクリン大佐に捕まってしまう。マクリン大佐は地球を滅ぼす最終兵器タロンを起動させようとする。スワンたちの最後の戦いである。地球は滅亡するのか。もう駄目だという危機一髪で止められる。シスターは戦いで負傷する。
スワンたちが重症のシスターをつれて地上に出ると、おりしも核の冬が終わるところだった。雲が切れ太陽が現れると悪の軍団は逃げ惑う。シスターはスワンの腕のなかで太陽を浴びながら息を引きとった。

戦いの後、スワンと恋人は全米の植物を蘇らす旅に出る。二人は噂になりやがて伝説になった。マキャモンはこのカタルシスがあるので救われる。核による文明崩壊と再生のファンタジーが融合した大作だ。長いが一挙に読み切れる。


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