タイ パッポンの踊り子と行くメークロン市場は楽しい

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「それじゃ、明日電話頂戴ね」ファーちゃんは服を身につけると鏡の前で髪の毛を整えながら話かけてくる。しばらくブラシを使っていたがその手を止めて振り返る。「かもちゃん、もっといいことがある」「何」「私も一緒に行くよ」「どこへ」「だからパタパタ市場だよ」

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私がメークロン市場に連れて行く

素晴らしい思い付きをしたかのように満面の笑みを浮かべる。さっきまでは、もし私がメークロン市場まで行って、気が向いたらファーちゃんに連絡するはずだった。それが必ず電話することになり、今は更に一緒に行くことになっている。一緒に行ったら夜まで付き合わないといけない。

「日本人、パタパタ市場行きのバスは難しい。降りるバス停はもっと難しい、ちょっと離れてる。私が居れば安心だよ」「でもファーちゃんも予定が有るんじゃないの」「大丈夫」暫く沈黙したあと私の目を真っ直ぐにみて「昼は食事代とバス代出してくれたら良いよ、夜は今日と一緒でいい」やっぱり夜のお付き合いがあるんだ。

「明日、エカマイ駅で待ってるね、きっとよ」カバンを持つとドアの前で手を降ってさっさと帰ってしまった。でもエカマイ駅って行ったことないんですけど、どこで待ってたら良いの。明日は静かに過ごす日じゃないのか。きっぱり断れば良いのだがそれができない鴨だった。

エカマイ駅の改札を出てその辺りでブラブラしていたら彼女の姿が見えた。彼女は難しい顔で私を探していたが、見つけると笑顔になって駆け寄ってくる。女性が好きな男を見つけたときの溢れるような笑顔は世界共通らしい。でも私って好きな男なのか。「待った?」これも世界共通の質問である。「いいや、今付いたところ」これもテンプレートだ。

濃いグレーの無地のTシャツにダメージデニム、長い黒髪が揺れる。昨日見たよりもずっといい女ではないか。そんな彼女が笑顔で側に立っている。ちょっと嬉しいのである。

旅の教訓 エカマイのバスターミナルは意外と簡単

「ツゥだよ」彼女は元気に歩き出す。2番出口の階段を降りるて右に行くと2〜3分でバスターミナルについた。ターミナルはいかにもタイというローカル感が漂う。ピンクガネーシャのお寺やパタヤへのバスもここから出ていた。見かける外国人は半ズボンの旅慣れたバックパッカーが多い。「こっちだよ」とファーちゃんが言う先に小さなカウンターがあった。一人100バーツ、タクシーだと1000バーツくらいだからとても安い。次のバスは12時30分頃である。

ねっ、私がいたから簡単だったでしょという風にニッコリ笑う。「こっち、こっち」次はどこへ行くのかと思ったらコーヒーショップだった。タイ人もそうだが東南アジアの人はコーヒー好きである。あまり知られていないがお隣のベトナムは世界第2のコーヒー生産国である。スペシャルコーヒー160バーツ。買ったコーヒーをもってバスを待つ。

バスはロットゥーと呼ばれる小型バスである。ここから市場までは約1時間30分くらいだ。バスは時刻通りに出発した。途中から高速道路に乗る。窓から見えるタイの風景が楽しい。ファーちゃんは窓側に座ってご機嫌である。「久しぶりなの、遠くへ行くの」バスは快調に進んで行く。

メークロン市場はバンコクから約70キロ離れたサムットソンクラーム県にある。関西で言えば、大阪から大津くらいか。もともとは地元民向けの市場だったが、線路の両側に店があり電車がそのギリギリを通るのが珍しくて観光地になった。電車は一日8本通る。そのたびに店の日除けのタープを電車の邪魔にならないように片付ける。それが面白いらしい。日除けをパタパタと傘のように畳むので、傘たたみ市場、タラート・ロム・フップと呼ばれる。

旅の教訓 降りるバス停はちょっと難しい

ファーちゃんは時折こちらを向いて話しかけていたがそのうち寝てしまった。寝顔は無防備で可愛い。こんなオヤジを信用しているのだろうか。女性のこの気の許し方はいつも不可解である。後30分くらいで着くはずなんだけど、まだぐっすり寝ている、降りるバス停が難しいっていってたじゃないか。

そろそろかなと思った頃、彼女は吃驚したように起きて「ティーニーティナイ」と聞いてくる。何を言ってるんだろ。彼女は今度は大きな声で「ティーニーティナイ」と叫ぶ。「メークロン」返事が返ってきた。「次降りるよ」彼女が寝たままだったらバスはどこへ行ったのだろうか。市場行きのロットゥーで最大の難関はこの降りるタイミングだ。

バス停から市場までは5分ほど歩く。食べ物やお土産、衣料、アクセサリーの店が歩道に横に並んでいる。こういう所で女性の足が度々とまるのも世界共通である。彼女はコーラと黄色いパンみたいなもの、ジャラジャラしたネックレスを買っていた。払うのは私だったが。

メークロン市場は雑誌に有る通りだった。鉄道のレールにくっ付きそうに果物や商品が置かれている。生きたナマズや蟹が氷の中にいる。アジのような魚の干物が並んでいる。海産物が多い。それもそのはずここはタイ湾に面したメークローン川の河口にあるのだ。観光地は市場以外にもアンパワー運河の水上マーケット、メークロン川のボートクルーズがあるそうだ。

「電車が来るよ」店の人達が馴れた手つきで日除けをたたみだした。日除けは2動作くらいで片付く、実に機能的だ。「キャー、逃げなくっちゃ」ファーちゃんがしがみついてくる。「こっちだよ」店のおばちゃんが呆れたように声をかけてくる。

みんなが避難する場所があるようだ。「あんたの男かい、ボーッとしているみたいだから良く見とかないとだめだよ」「違うよ」おばちゃんと彼女が何か喋っている。もちろんタイ語だから分からない、想像である。

やがてオレンジと黄色の電車がプワーと警笛を鳴らしながらゆっくりとやってきた。ほんとうに側を通る。電車を触っている観光客もいる。線路の近くの商品は置いたままである。電車から鉄粉が落ちてくるのではないかと心配する。電車が通りすぎると人が線路にでてきて、日除けが瞬く間に降ろされる。ほんとうに上手く出来ているのだ。

「轢かれるかと思った、怖ーい」何を突然ぶりっ子してるんだろ「喉が乾いた、行こう」駅へ向かう。電車は一時間ほど停車するらしい。彼女は近くでマンゴージュースを買うと電車に乗り込んだ。「電車で帰るの、時間がかかるそうだよ」「そう、3時間くらいかかる」「それはちょっと」「嘘だよ、止まっている間は乗っていて良いんだよ」ということらしい。

バックパッカーの下川裕治氏が書いたタイの人たちの面白い話に、タイの空港のリムジンバスの逸話がある。バスが、車庫に駐車している間にどんどん人が乗ってくる。みんな休息場所に使っている。もちろんタダである。安いホテルに長い間宿泊していると、お掃除のおばちゃんが彼の部屋で昼食を取るようになったそうだ。ここの電車もそんなふうなんだろう。

帰りのバス停は少し離れたところにあった。これはファーちゃんがいなければちょっとわかりにくかった。その近くは大きな市場である。そこの屋台でタイのラーメンを食べる。値段は40バーツと安い。トイレは5バーツである。そのあとパタパタ市場に戻って出発して行く電車を眺める。たくさんの乗客が電車の中から市場を見下ろしている。時間と気持ちに余裕があれば電車も良いかもしれない。

12時30分のバスでメークロン市場を出発して着いたら2時、見物する電車が来るのが2時30分で、電車が帰っていくのが15時30分、バンコクへ帰るバスが15時45分、ちょっと渋滞でエカマイ駅についたら17時45分、夕方である。上手く出来てるなぁ。

バスに乗り込むと「かもちゃん、ご飯食べよう、ビール飲めるところ知ってるから」彼女は腕を絡めながらもう次の予定に取り掛かっている。彼女の本来のお仕事の時間が迫っているせいか、来るときより身体の距離が近い。今日は風俗店は休みだが彼女は営業日だった。

「楽しかった、かもちゃんありがとう。またどこか行きたいね」何かしおらしいと思っていたらもう寝息を立てている。それはそうだ、私は窓から見えるタイの風景は楽しく見飽きることはない。だが彼女にとっては日常風景なのだ。眠たくもなるだろう。横には人畜無害のオヤジが座っている。安心なのだ。

メークロン市場は、評判通りに面白い所だったが、ここは断じておっさん同士で行く所ではない。女性を交えたグループ、妻や恋人と行ってこそ楽しい場所だ。行き方はファーちゃんがいうほど難しくなかった。それでもファーちゃんと一緒で良かった。一人なら侘しいオヤジがコンビニに晩飯を買いに行くような気分になっただろう。

(注釈 文中の会話は片言の英語と日本語だから書いているほどスムーズではないことを弁解しておきます)

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